2014/11/29

認知症介護通信14/11/29

気が付けば50回を超えた ・・・ 楽しみと怒り

思いつくままにこのブログを書いているものだから、毎回のテーマが発散してしまい連続性がない。楽しみながら、時には怒りを抑えながら、このブログを書いて毎週更新している。楽しみというのは、自分の興味のあることに没頭することである。怒りというのは、「このばぁちゃん、認知症の症状が進行してきたね!」と気付いても、なかなか治療介入に踏み込めないことへの怒りである。

医者を選べば認知症は良くなる!」というのは事実だと思う。


アルツハイマー型認知症かもしれない症例
Kさん(77歳)は、交通事故による頭部外傷のため体の左半身に麻痺がある。だから、全介助であるのだが、食事だけは自力でできていた。ただ、PEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、経皮内視鏡的胃ろう造設術)があるので、一時期は経口摂取ができなかったのであろう。ここ半年ほど前から食事を拒否するようになり、昼食のみ胃瘻となった。朝と夕食は、自力摂取を勧めるが自ら摂食することは少なく介助で経口摂取している。

食事、排泄、入浴で介助が必要とはいえ、比較的手のかからない人である。声かけの反応は良く、知能はそこそこしっかりしているようであるが、ATDを思わせる「その場、取り繕い」の発言は頻繁にある。トンチンカンなことを言うものだから、職員を笑わせて皆おもしろがっている。

ところがある日、急に私に向かって「帰れ、クソじじい!」と言ったのである。私は思いもよらぬ突然の出来事にびっくりした。たまたま、面会に来ていた家族(娘)の前でそう言ったものだから、家族は私に恐縮して詫びて下さった。暴言・暴力など慣れているので、どうということもない。さて、Kさんの症状を簡潔にまとめると以下のようになる。

幻覚、妄想はない。
歯車現象はない。
いつもテレビを観て過ごし、日中の傾眠がなく視線がしっかり合う。
認知機能はいつも変わらないで一定している。
但し、年単位で見ると認知機能は緩やかに低下している。
以上のことから、レビー小体型認知症ではない

易怒性はない。
たまに暴言はあるが、目は笑っている。
常同行動はない。
びっくり眼(まなこ)ではない。
異食はない。
以上のことから、ピック病ではない

頭部外傷はATDの危険因子のひとつである。
病識がなく、明るいキャラクターである。

などと除外診断で考えると、やはり(海馬に比べて前頭葉萎縮が強い)ATDなのだろうか。
食が進まないためなのであろうが、ご飯、おかず、お茶をごちゃまぜにして遊んでいるようである。ピック病の食行動異常とは明らかに雰囲気が異なる。車椅子でなくて、自立して歩くことができて徘徊してくれればはっきりするのだろうが、歩けないから徘徊できない。

頭部CTで画像検査すれば、もっとはっきりと確信が得られるのだろうがそれができない。これが症状だけを診て鑑別する限界なのだろう。介護者としては、(最長でも)半年くらい前からの緩やかな変化を見逃さないで、「おかしいね」と感じて「○○型認知症なのでは?」と鑑別できる能力があればよいのである。

ここで注意しておきたいのは、ただ単に「おかしいね、呆けてきたね、認知症かな?」という漠然としたことから一歩踏み込んで、認知症の各タイプに特徴的な症状をしっかりと観察・把握しておくことである。そして、医師に的確に伝えることである。

「今後の介護計画、看護計画にも関わるでしょうから・・・」と前置きして、「アルツハイマー型認知症の疑いがありますよ」と報告してみたが、真剣に聞いてはくれなかった。
症状が進行する前に、早い段階で認知症の進行を遅らせる治療を始めるのが最善の選択肢であるのだが。


コウノメソッドで理解する認知症[2]
2003年、河野先生が共和病院の老年科部長時代に書かれていた「ドクター・コウノの認知症コーナー」の中に、以下のような記事がある。
日本の痴呆医療を学会や大学にまかせておけない。私たちは改革のため『日本丸』に乗ったのだと考えています。私たちが来年、臨床医のための研究会を立ち上げることがもしできたら、私は開会の挨拶でこう言いたいと思っています。
『大学とけんかをして飛び出した先生、大歓迎です。英語ができなくて論文が書けない先生、私もそうです。どうぞご参集ください。この会は、論文をたくさん書きたい先生ではなく、ひたすら患者さん家族を幸福にしたいと思っている先生だけ集まっていただきたい。米国の論文にしか価値を見出せない先生、日本の患者をもっとよく診てください。
この研究会のシンポジスト(代表討論者)は、論文数ではなく、患者数の多い先生からご発表いたます』と。日本にはきっとできる。世界一の痴呆症医療技術の国になれる、と私は信じています。
前に、「既存の学会だけでは、今日我が国が直面している認知症の社会問題を解決する具体的かつ実践的方策を提示することが難しい」と書いた(2014/11/18)。認知症の基礎研究や予防に力を入れることに異論を唱える者はいないであろう。これらの成果が1日も早く認知症患者と家族のために普及されることを願っている。

ところがである。抗認知症薬であるアリセプト(一般名:ドネペジル塩酸塩)が登場したのが1999年のこと、レミニール(一般名:ガランタミン)、メマリー(一般名:メマンチン塩酸塩)、リバスタッチ/イクセロンパッチ(リバスチグミン)が登場したのが2011年のことである。これらは根治薬ではなく、進行を抑える抗認知症薬なのだが、せっかく良い薬が登場したにも拘わらず作用ではなく副作用の事例が後を絶たないという現実がある。

先に引用した河野先生の記事が2003年で、アリセプトの登場が1999年であるから、既にこの時には新たに学会を立ち上げてでも手を打たなければ、真に役立つ認知症医療は実現できないと考えていたのであろう。このことは、コウノメソッド 薬物療法マニュアル2015年版 にも見ることができる。(以下、青色表示はマニュアルからの転記引用)
インターネット普及の時代、一般の人もあふれるほどの知識を持っている。ただ、その知識の使い方がずれている可能性があり、それを補正するのが医師の助言である。残念ながら、多くの場合ずれているのは医師の方であり、認知症における誤った認識は目を覆うほどである。学会や医学書は、常識的な対応を教えてくれない。それどころか積極的に医療費高騰、副作用へと誘導している感もある。 
学会は、新薬のすべてを推奨する倫理観のないキャンペーンである。学会が行われるたびに医療費は高騰する。患者が増えたからではなく学会が医療費を高騰させている。学会の理事の目的は製薬会社に恩を返すことであり、必ずしも患者優先でないことがある。  
学会は、薬価の高い薬(新薬)をなるべく多く処方させようとする教授たちから洗脳を受ける場であり、製薬会社から寄付金を受けている限り正常な話にはならない。若い医師は、統計的有意という言葉に弱い。有意にするためにデータ偽装が3割で行われていることがアンケートでわかっている。従って、論文が真実との仮定で運営されてきた学会も根底から信用性が失われている。また、学会が認定する専門医は、治すのがうまいという意味ではない。
ある学会の機関誌(月刊雑誌)が4年間分ほど手元にある。その4年間に発表された論文には認知症の総説や概説、治療方法について記されている。その中で、当然ながら「処方量を減らしただけで著効であった」という論文は存在しない。勿論、コウノメソッドに基づく臨床報告も登場しない。プラセボ群と比較して優位に効果があるという科学的根拠(エビデンス)がないということも理由にあるのだろう。そういうことで、書いても受付却下されるだけなのである。

コウノメソッドで標準的に用いられるウィンタミン/コントミン(一般名:クロルプロマジン)はどうであろうか。補完的に用いることはあっても、治療の主軸としての臨床報告も登場しない。
それは何故か。薬価が安い上に、製薬メーカーとして主力製品として拡販に努めている訳でもないこともある。抑肝散は漢方薬のひとつであるが、これはレビー小体型認知症の幻覚妄想に効果があるということで広告に掲載されている。

この学会の会員には、年数回の臨時増刊号と、年1回開催される学術集会の抄録集が無償で送られてくる。スポンサーは当然のことながら、抗認知症薬の製造販売メーカーである。こういうメーカーのご厚意に背く、即ち「少量の適量を使って著効」というような情報は掲載できないのである。理由は売上げが減るからである。

他の病気とその治療薬の関係も似たような事情(背景)を抱えているのかもしれないが、認知症の治療がうまくいかない理由は上記のような利害関係が背景にあると認識しておいた方がよいのだろう。用法用量通りの処方で治療の効果があったとすることばかりが強調されている。

ここで改めて「コウノメソッド」を今一度確認する。
河野和彦医師(医学博士)が、認知症を30年来治療してきた経験から、認知症患者の症状を診て症状と体質に合わせて薬をmg単位できめ細かくテーラーメイド処方する方法(method)を定めた認知症治療体系のこと。その処方においては、「介護者保護主義」、「家庭天秤法」、および「サプリメントの活用」を3本柱とする治療哲学で貫かれている。

家庭天秤法とは、薬の副作用を出さないために介護者が薬を加減すること。介護者保護主義とは、患者と介護者の一方しか救えないときは介護者を救うこと。更に、認知症治療において有用である健康補助食品(サプリメント)も活用する。

2014/11/22

認知症介護通信14/11/22

DO処方(おもおきに処方)

前回と状況に変わりなしということで、処方も変わりなし。これを「DO処方」と言うそうである。本当にDO処方で良いのかと、疑問を持たずにはおれないこともある。
DO処方が、適切な精査なく漫然と続けられる限り、それは「毎度同じ薬を使こうてくれて、どうもおおきに」という製薬会社からのお礼を意味するのではないか。

独居の母はかかりつけ医(内科)に定期的に通い、院内薬局で薬を10種類くらいもらっている。最近、薬疹により体中が痒いということが皮膚科の外来受診で判明した。「服用している薬が多いから、一度整理してみては如何ですか」というセカンドオピニオンをいただいたので、最低限の2種類に絞り込んだ。

その後、暫く様子を観ているのだが、別段生活に支障はなく何の問題もないという。「薬のやめどき」 それは、本来は患者と医師が相談して決めることに間違いないだろうが、「やめどき」を持ちかけるのは患者の意識次第であるとも言える。服用する薬はできるだけ少ない方が良いに決まっている。

上記は認知症ではない慢性疾患でのことである。認知症の場合、薬のやめどきというのはあるのだろうか。前々から気になっていたので、鹿児島認知症ブログの平山先生にお尋ねしたところ、次のような「目から鱗」のような記事を掲載していただいた。患者家族、あるいは施設介護者としては耳の痛いご指摘、そしてまた謙虚に受けとめるべきお話しが掲載されているのでご覧いただきたい。 参照リンク:薬の止めどきについて


キリ番獲得。60,000回

認知症治療でご活躍中の平山先生の鹿児島認知症ブログがアクセス回数60,000回を突破した(2014/11/16)。
この数字が認知症への関心を示すひとつの指標であって欲しいし、鹿児島在住の認知症患者の方々が、より適切な治療を受けるきっかけとなれば嬉しい。






ビデオで学ぶ認知症

「認知症とアルツハイマー型認知症はどう違うの?」と私の家内が尋ねた。一般の人の認知症の知識というか、関心というのはこんなものかと改めて思った。ウチには認知症関連の本が何冊もあるのに! 家族(親)に認知症患者が幸いにして居ないものだから、認知症に疎いのも仕方ないことかもしれない。
そういう私もまだまだ知識が足りないから、色々とインターネットからも学んでいる(基本は書籍からである)。認知症フォーラムに河野先生が登場しておられるので、拝聴させていただいた。

現在は、名古屋フォレストクリニック院長であるが、フォーラムにご登場された当時は勤務医であった。





木村先生(国立病院機構 菊池病院 院長)の認知症セミナーがYouTubeに公開されているのを見つけた。本から文字情報として学ぶことが重要であるが、耳からも学ぶことも重要であり、くり返し学習するのにとても都合が良い。














時代は変わったものだ。昔は、NHKのテレビ通信講座や、ラジオ講座で勉強したものだが、インターネットの時代、色々な情報を手軽に入手できる。

2014/11/18

コウノメソッド 2015版公開される

コウノメソッドで理解する認知症[1]

コウノメソッドとは認知症を治療する対症療法のこと。河野和彦医師(医学博士、認知症専門医、名古屋フォレストクリニック院長)によって提唱された認知症の診断と治療体系で、認知症のBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)を、陽性症状、陰性症状、および中間症に分類し、それぞれに最も適した薬剤を極力少ない副作用で処方する治療プロトコルである。


コウノメソッドは、陽性症状の強い認知症でも家庭介護が続けられるように処方することを主眼として一般公開される薬物療法マニュアルに集約されている。
そのコンセプトは、 
 ①薬の副作用を出さないために介護者が薬を加減すること(家庭天秤法) 
 ②患者と介護者の一方しか救えないときは介護者を救うこと(介護者保護主義) 
 ③サプリメントの活用 
を処方哲学としている。 

コウノメソッド 認知症薬物治療マニュアル 2015年版 が発表された。歩行障害系の認知症の詳しい治療方法が加わったところが注目される。一般的に、「マニュアル」と称するドキュメントは解り辛い性質のものである。元々このマニュアルは一般向け、つまり患者向けではないのだから、認知症患者家族や施設介護者が読んでも難解であるかも知れない。
そういう方々は、一般向けに著された新書版の「医者は認知症を治せる」(廣済堂)をお読みになれば、さらに理解が深まるだろうと思う。

今回のこのブログでは初心に戻って、「コウノメソッド」という認知症治療方法を介護者の視点から書いてみる。

「認知症は治らない」ではなく、「治せない」でもなく、「治せる」のである。ただ一般にはまだまだ、認知症には非薬物療法が第一選択肢であるという認識が広く浸透しているがために、「認知症の症状はこうやって治せばいいのですよ~(コウノメソッドのこと)」と、一開業医の医師(河野医師、名古屋フォレストクリニック院長)が言ってもなかなか理解されず普及しないのが実情なのである。

認知症という、遂行機能と社会適応能力の障害は完全ではないにしろ、治せるのである。
認知症の原因であるアルツハイマー病やレビー小体病そのものを根治してしまうとは言っていない。これら認知症の原因となる脳の病気自体が治せますという治療方法は現在のところ存在しない。あくまでも、認知症の困った症状(BPSD)を診て、可能な限り少ない薬で治しましょうという対症療法なのである。

この対症療法を実現するためには一体どうすればよいのだろうか? 先に挙げたコンセプトが示している。初めて目にすると理解され難いところもあるかもしれないが、特に①と②は痛感するところである。

薬の副作用を出さないために介護者が薬を加減すること(家庭天秤法)
薬は医師から処方された通りに服用しなければならない。かと言って、5分、10分の診察で最適な処方量が決められるはずがない。だから、「10mgの薬を出しておきますから、朝昼晩に、一番効くように調整して服用させてください。減らしてもいいし、1日おきでもいいですよ。」
これが家庭天秤法なのである。施設入居者の患者が対象であれば、「施設天秤法」である。テーラーメイド処方と言ってもよい、患者個々の体質や症状に合わせた最適な薬の種類と用量を見つけ出す手法である。つまり、製薬会社が決めた通りに、5→10→15mgというように漫然と薬を出さないというのである。


認知症の患者をかかえる家族の介護負担というのは大変なものである。私の場合、家族に認知症患者は居ないから家族としての経験はない。施設で介護の仕事をしているのだが、確かに大変な仕事ではある。
患者と介護者の一方しか救えないときは介護者を救うこと(介護者保護主義)
認知症になっても穏やかに暮らしていけるのであれば、それはそれで老化だと捉えて住み慣れた家で家族の手助けを借りて生きられればそれにこしたことはない。また、デイサービスなどを利用して家庭での介護負担を軽減すればよい。

しかし、認知症の陽性症状が酷くて介護者が困り果て疲弊しては介護はできなくなってしまう。また、陰性症状が酷くて元気がなくなり、ご飯を食べることすら時間がかかるといった状態でも困る。これらは介護者を疲弊させて介護が成り立たなくなるようなことになる。即ち、
患者と介護者の一方しか救えないときは介護者を救うことを選択するという。
この選択とは、積極的意味での選択(choice)ではなく、やむを得ない二者択一(alternative)なのである。勿論、患者と家族の両者共に救えることが最良の選択であることは言うまでもない。



認知症の根治薬は現在のところ存在しない。だから、抗認知症薬(アリセプト、レミニール、メマリー、リバスタッチ/イクセロンパッチ)に加えて、従来からある抗精神病薬(グラマリール、ウィンタミン/コントミンなど)を少量だけ(副作用ができるだけ少ない用量)使うのである。更には、効果が確認されているサプリメント(健康補助食品)も併用する。
サプリメントの活用である。そのサプリメントのひとつがフェルラ酸であるが、商品名はフェルガードである。コウノメソッドでは、フェルガードを治療の要のひとつとしているのは治療効果があることがはっきりしており科学的にも証明されているからである。(参考記事はこちら→)

以上がコウノメソッドマニュアルの概要である。これらは、既に公開されている前年までのマニュアルと概ね同じである。新しい項目としては、歩行障害系の認知症の他に、認知症治療研究会のことが掲載されていることである。この研究会の趣意書をご覧になれば、コウノメソッドをベースにした治療を推し進めることが、認知症治療の現実的解決策であることが分かる。
では何故新たに学会(現在は研究会)が必要なのか、である。この答えはマニュアル全般にわたって綴られていることであるが、ひと言で端的に書き表せば、
既存の学会だけでは、今日我が国が直面している認知症の社会問題を解決する具体的かつ実践的方策を提示することが難しいからである。



マニュアルで認知症治療のすべてが語り尽くされるはずはない。本質的には患者の数だけ個々の症状があり、個々の治療がある。更に詳しくコウノメソッドについて知りたければ、少なくとも以下の3冊は読んでおきたい。(日本医事新報社刊)。








内容を見る→

【参考】
 コウノメソッド 認知症薬物治療マニュアル 2015年版

2014/11/15

アリセプトが悲劇の始まり

アリセプトが悲劇の始まり

今から3年余り前、有料老人ホームで遭遇した出来事である。この出来事は今もって忘れることができないアリセプト被害の事例であり、アリセプト3、5、10mgの用法用量の規定を遵守したがために生じたことである。この事例は施設で毎日書き綴られる「サービス提供シート」(介護記録のこと)に、処方された薬剤名を看護師が記入してくれていたから分かった事実である。

入居者のKさんは「淑女」と呼ぶにふさわしい上品な人であった。 MCI(軽度認知障害)に相当するのであろうが、時々見守りしていればほとんど自立して生活できるレベルであった。それでもたまに、アルツハイマー型認知症(ATD)の初期を感じさせることもあったが、お世話する上で特段の障壁はなかった。(現在の私のピック病の知識を持ってしても、Kさんはピック病ではなく純然たるATDである。)

ある日、Kさんは医療連携先の医療機関でATDと診断されて、アリセプト5mgが処方された。受診には施設の職員ではなく、Kさんの家族が同行した。面会によく来るでもない家族が付き添ってKさんの最近の生活状況をきちんと話せる筈はない。書面で何か情報を伝えるくらいのことはしたであろうが、その辺のことは私には正確には分からない。

アリセプトが規定通りに増量されたことに間違いはないのだが、その増量過程と周辺症状の悪化具合を時系列できちんと示せるだけ正確に覚えていないので、実際にあったことを以下に列挙する(発生順ではない)。

 ・落ち着きがなくなり、多動となる(徘徊)。
 ・食行動の異常が目立つようになり、食べ物の入ったままの器を重ねる。
 ・食べ物を手掴みで食べる。お箸をまともに使えない。
 ・食べ物以外を口にする(異食)。

 ・廊下や部屋の床に放尿する。

 ・トイレ内では、便器ではなく床に放尿する。
 ・枕や掛け布団を便器に突っ込む。
 ・弄便する。その汚れた手で部屋や廊下の壁に触り、便汚染を拡げる。

 ・他人の部屋に勝手に入る。

 ・声かけに従わず怒り出す。
 ・裸のまま部屋から廊下に出てくる。

上記のようなことが立て続けに生じたのであるから、介護現場はたまったものではない。24時間見守りすることは当然ながら、本来ならば不必要なまでの見守りと異常行動による後始末の労役まで負うことになったのである。

5mg投与の時点で既に元気が良くなり過ぎて、「ちょっと効き過ぎかな・・・?」という漠然とした印象はあったのだが、Kさんの様子を見守るしかなかった。やがて、5から10mgと規定通りの増量が始まった。その結果、上述のような周辺症状が現れ、現場は散々迷惑を被ったのである。

あまりの酷さにみかねて、「アリセプトが多すぎる。平均的処方量の3.6mgで止めて欲しい」と、施設のケアマネージャーに助言してみたのだが、まったく聞き入れてはもらえなかった。そもそも、 「あの病院ではまともな治療などできないだろう」と私は思っていた。昔から、薬をたくさん出すということで有名な病院なのである。それを嫌って勤務医が退職して開業したという「業界裏話し」もある。

暫くの休薬期間があったかどうかは覚えていないが、アリセプトに代わってイクセロンパッチが処方された。これもまた、用法用量の規定通りの処方である。そして周辺症状の悪化もまた然りである。上記の状態が続いたのであるが、Kさんはまだ「自分はおかしくなった」という自覚もあってか、時折自分の異常な行動を自覚して悩んでいたフシもあった。

それから現在に到るまでKさんがどのような経過を辿り、どのような状態であるのか私は知らない。というのも、このエピソードがあって暫くのちに私はその有料老人ホームを辞めたからである。施設長(看護師)に言われた言葉が今も忘れられない。「そんなに認知症のことに興味があるなら、ここはあなたの居る職場ではない。医療機関に変わりなさい」と。

その有料老人ホームは全国に施設を展開する大手の企業なのであるが、近頃は「認知症対応に力を入れる」などと株主総会資料で謳っているのだから皮肉なものである。高齢者介護施設では、認知症に対応できる能力が求められるのは当然のことである。
認知症に対応できる能力とは、単に生活援助に留まらず、認知症の早期発見は言うまでもなく、進行抑制のためのリハビリである。しかしながら、現状の認知症医療レベルでは、施設側としては診断と処方薬の妥当性を評価して不適切な場合にはそれを指摘して是正させるだけの能力を持っておく必要もある。


薬はできるだけ使わない方が良いにきまってる。だから、本当に必要な薬をできるだけ少用量で最大限の効果が得られるようにしたいものである。上述の事例に登場したイクセロンパッチは、用法用量の追加に関する承認申請が出された(2014/11/05)。アリセプトのレビー小体型認知症への適用と同様、大丈夫なのだろうかと心配になる。

2014/11/08

レビー小体型認知症

やっと鑑別できたレビー小体型認知症

最近、Oさん(80歳)は食事を拒否することが多くなってきた。何を食べても美味しくないと言い、食事を拒否するのである。1年前は見守り程度で自力での食事摂取ができていたのだが、最近は食欲不振もあって介助なしでは食事摂取ができない状態である。

「最近、我が儘になった」とか「食事の拒否が目立ち、摂取量が減った」ということで、職員の間ではOさんを心配している。以下が誰の目にも分かるOさんの様子である。
 ・理由がないのに、急に不機嫌になる。
 ・食事を拒否するが、介助すれば半分程度は食べる。
 ・食事中にむせることがよくある。
 ・特定の職員(私のこと)の名を叫んで呼ぶ。日によっては断続的に終日叫んでいる。
 ・被害妄想がある。特に被注視妄想(前に座っている人がジロジロと見ている)があり怒り出す。
 ・体幹が横にいつも傾いている。

私は認知症を疑っているのだが、いまひとつ確証を掴めずにいた。それで、両腕の肘を持ち上げて「鉛管様筋固宿」と「歯車現象」の確認をしてみた。すると、両腕に僅かではあるが、「歯車現象」を確認することができた。別の日にも再度確認してみたのだが、やはり「歯車現象」がある。
更に、レビースコアを基にしてOさんがDLBではなかろうかと鑑別してみると、やはりDLBであると推定されるのである。

DLBは診断が難しく、アルツハイマー型認知症(ATD)と誤診されることがあると指摘されている。確かにその通りで、施設入所者の中にはDLBであるにも関わらず、ATDと診断されている人がいる(中には認知症の診断さえない人もいる)。

Oさんの場合、80%程度の確率でDLBとみて良いと思う。100%の自信がもてないのは頭部CT画像で脳梗塞の有無を確認できないからである。念のため、既往歴を見てみたら糖尿病の記載はあるが、脳梗塞の記載はない。糖尿病の高齢は脳梗塞の危険因子であるから、当然疑っているのである。

レビー小体型認知症の診断基準は以下の通りである。この基準を基にすると、OさんがDLBであるかどうかはなかなか分からない。


以上見てきたように、初期段階のDLBであり、懇切丁寧で説得力のある詳細な情報を問診時に医師に伝えない限り正確な診断は得られないだろうと思う。私なら迷わず、レビースコアを持って市内唯一のK医院(コウノメソッド実践医)に連れて行くのは言うまでもない。

現実的かつ切実な問題として、認知症の「に」の字も口にしたことのない看護師にどのように報告・説得して、家族の承諾を得て受診させるかということである。うぅ~ん、これが悩ましい!

更に、Oさんから聞き取りと観察を続けてみた。すると、下記のことが分かった。
 ・記憶力には変動があり、2時間前に食べた昼食のことを忘れていて、「食べていない」という。
 ・前日に交わした会話のことをしっかりと覚えていることもある。
 ・幻覚の有無を何度も確認して訊いてみるが、「ない」と明言する。(事実、ないと思える。)
 ・ぼんやりしていることが多い。但し、意識障害のレベルではない。
 ・食事の際、食塊を飲み込みにくいという。
 ・歯車現象に再現性があり、いつもその現象を生じている。
 ・その場取り繕いの言動はなく、ATDらしさを微塵も感じることがない。
 ・急に怒り出すことがあるが、ピック病らしさを感じることがない。

たぶん、こういうことをきちんと医師に正確に伝えない限り、OさんをDLBだと診断できないであろうと思う。初診20~30分程度の枠内で、認知機能の変動あり、DLBの顕著な症状(幻覚、妄想)のないOさんをDLBと診断できる医師は少ないのではなかろうか。DLBは誤診されているケースが多数あると指摘されている理由をOさんは教えてくれているように思えてならない。いつも近くにいてお世話しつつ、「ちょっとおかしいね・・・」と気にしながらも、DLBだと鑑別するのに半年近くかかっているのである。


認知症の国際会議始まる 東京(11月5日)

認知症に関する国際会議が始まった。あまり期待はしていなかったが、「やっぱりね・・・・」という印象である。どこがかというと、「最新の予防研究の報告」、「効果的なケアの普及」というところである。現時点で、今必要とされる実現可能な効果的治療法というポイントが欠落しているのである。
高齢化に伴い患者が急増している認知症について、「ケアと予防」をテーマに先進各国の政策担当者などが意見を交わす国際会議が、5日から東京で始まりました。
 <中略>
会議は3日間の日程で開かれ、最新の予防研究が報告されるほか、効果的なケアの普及に向けた国際社会の連携などについて意見が交わされることになっています。

(上記青色箇所は、NHK NEWS WEBより転記引用)
いつまでこんなことやってるの? と、思ってしまう。


安倍晋三首相は六日、東京都内で開催中の認知症に関する国際会議に出席し、現在の認知症対策を拡充し、新たな「国家戦略」を策定する方針を表明した。「わが国の認知症施策を加速させ、厚生労働省だけでなく政府一丸となって、(認知症の人の)生活全体を支える」と述べた。
厚労省が昨年四月から進めている「認知症施策推進五カ年計画」(オレンジプラン)を見直すほか、省庁横断的な取り組みも進める。年末の政府予算案の編成に反映させるため、年内に策定し、来年度から実施する方針。
認知症になっても住み慣れた地域で暮らせるようにするのが狙いだが、財源確保や、当事者の視点をどう盛り込めるかが課題となりそうだ。
安倍首相は「認知症の人が安心して暮らせる社会をつくることは、世界共通の課題だ。最速で高齢化が進むわが国こそ、社会を挙げた取り組みのモデルを示さなければならない」と述べた。
新たな戦略では、市民による「認知症サポーター」の養成目標を現行の六百万人からさらに引き上げるほか、医療・介護の専門職による「初期集中支援チーム」を全市町村に配置することなどを盛り込む方向だ。同チームは現在のプランでは「全国普及を検討」との表現にとどまっている認知症の発症リスクや容体の変化を探るため、一万人を対象にした追跡調査も実施する。
国際会議は昨年十二月に英国で開かれた「主要国(G8)認知症サミット」の後継イベントで、五~六日に開催。世界保健機関(WHO)や各国政府の当局者に加え、認知症の当事者ら約三百人が出席し、症状の各段階に応じた支援や、科学的な予防と治療などについて、国際協力や共同研究を進められるよう意見交換した
検討結果は来年三月にWHOが開く各国保健相会合での議論に反映させ、世界全体で認知症を共通の重要課題として取り組むよう呼び掛ける見通し。
 認知症対策で新戦略 首相表明、年内策定へ (上記青色箇所は、東京新聞より転記引用)

どこかしら、虚しい言葉の羅列であり、政治家のパフォーマンスにしか思えない。認知症患者の増加は、国家存亡の危機と思うのは考え過ぎであろうか。医療費増大、介護費と負担の増大、国力を落とすに違いないのだが。

2014/11/01

認知症介護通信14/11/01

ピック病の人、逝く

Kさんはピック病の典型症例の人であった。ここ数ヶ月はすっかり元気がなくなり、いよいよ最期が近いだろうということは誰の目にも明らかであった。数週間前には離床して、介助によって僅かではあるが口から食事を摂ることができていた。全介助の状態だが、介護抵抗、暴力ありなのであるから、老衰末期ながらもはや「天晴れ」である。(力も声も弱々しくて破壊的な脅威にはならない。)

下記はKさんの周辺症状である。
理由のない突然の怒り、暴力、暴言、つば吐き、ズボンの裾をたくし上げる、他者のお膳に手を出す、採血を嫌がり暴れる、無目的に立ち上がる、異食など。

Kさんは、私が入職する以前からの利用者で、もう5年くらいは施設で暮らしているのだが、当初からピック病の周辺症状のため介護上の苦労が続いていたという。但し、Kさんをピック病だと認識できずにいた看護師や介護士にはどうすることもできずにその期間を苦労だけに費やした。陽性症状の激しい周辺症状に対しては色々と薬の調整をしてきた経緯があるのだが、上手くいかずにいたという。

私はKさんをピック病だと見抜き、施設嘱託医にウィンタミン(朝:4mg、夕:6mg)を処方していただくように上申した。本来ならば、こういうことは看護師のすることであるが、「Kさんはピック病です。ピック病にはウィンタミンが効きます」などと私が言ったところで、理解されるはずがない。
だから、嘱託医に直接上申したのである。本当ならば、ウィンタミン、リバスタッチ、フェルガードの「総力戦」で治療を願いたいところではあるが、それは実現性の上でハードルが高すぎるから最低限のことしか望んでいなかったので、ウィンタミンだけをお願いしたのである。

その後暫く様子をみていると、ウィンタミンではなくグラマリールが処方されたのだが効果は得られなかった。続いて、レボトミンが処方された。レボトミン(レボメプロマンジ)はウィンタミン(クロルプロマジン)と同様、統合失調症の治療に使われる基本的な薬である。
レボトミンでも効果は見られなかったので、ウィンタミンを再度お願いしたところ、ようやく処方された。朝、12.5mgのコントミンが1錠である(ウィンタミンもコントミンも同じ、一般名がクロルプロマジン)。院内薬局に半分割りを依頼したら割れない、またウィンタミン細粒は置いていないという。

それでもまあ良くやったとばかり、Kさんの様子を観察していると明らかに穏やかになってきたのが分かる。陽気な顔で童謡を歌ったり、声かけに丁寧に応じたりしているのである。「コウノメソッド効果あり!」と実感した瞬間である。

ところが、数日経つとたまに易怒性を生じる時があり、増量の必要すなわち「施設天秤療法」の必要を感じたので、様子を観ながら75mg/日までの調整を看護師に指示するようにお願いした。残念ながら、この天秤療法は実現しないまま介護抵抗や暴力が続くようになってしまった。結果、暴力と介助抵抗を我慢しながらの食事などのお世話をする日が続いたことは言うまでもない。

医療従事者ではない者が薬の処方に口出しすることの限界を感じた事例である。しかし、である。緩下剤の調整ならば自分達で躊躇なく行うのに、向精神薬の微量な調整は決して行わない消極的態度の看護師は如何なものかと思う。ウィンタミンで効果が出ていることを見極め、看護師が増量を上申するのが本来の筋である。

Kさんはいよいよ口からの食事摂取ができなくなり、昏睡状態となってしまった。もはや暴力もなくなり、「平穏死」を待つだけとなったのだが、家族に看取られながら97歳の人生をまっとうされた。
私が最期にお世話させていただいたのはその数週間前のことである。その時、「お世話になります」、「ありがとうございます」などと弱々しい声で言っていた。

ところで、家庭の事情からか、近年は施設で他界すると一旦は家に帰ってから斎場にではなく、施設から家に帰ることなく斎場に直接搬送されることも珍しくはない。幸い、Kさんは施設から一旦自宅に連れて帰ってもらえたと聞いたとき、私は少しばかり安堵した。「住み慣れた自宅でゆっくりと一晩過ごしてから旅立ってください」と。


ピック病の人、入所生活始まる

このブログの「認知症介護通信14/08/30」で書いたショートステイ利用者のTさんが、本入所として生活し続けることとなった。
今日もあるショートステイ利用者の家族(旦那と娘)が様子を見に面会に来ていた。今回は約1ヶ月間くらい宿泊しているし、前々から断続的にショートステイを利用している。実はこの利用者はピック病なのである。FTLD検査セットは0点、まだまだ許容範囲内ながらも「易怒」、職員の言うことを聞かない、人前で服を脱ぎ始める、その他にもピック病を支持する根拠はあるが省略する。この人に初めて会った時から、私はピック病だろうと思っていた。ある日、サービス利用受入時に交付された資料を見ると、「アルツハイマー型認知症、アリセプト」と記されており、お決まりの誤診・不適切処方コースであることが分かった。これでは現在の治療を止めて適切な治療に切り替えない限り家に帰る、つまり在宅生活の再開は無理だ。

状況は更に深刻で、私が「この人はピック病です」と言ったところで、まともに話しを聞いてくれないことにあり、「あなたは医者じゃない!」ということで、問題解決の糸口にさえたどり着けないことにある。これはまさに、「自分の考えに凝り固まって、なにか意地になっている」の状況である。
これと同じ事例で、Mさんがショートステイを利用していたことがある。ADLがしっかりしていて自由に動き回れる上に異食があるから、目が離せない。やはり、ピック病なのにアリセプトが処方されていたから周辺症状が増悪して、在宅不可能になってしまった。Mさんは受け入れ施設が決まる間での間、「つなぎ」として当施設のショートステイを利用していたのである。

過日、施設待ちの順番がMさんにまわってきたのだが、「受け入れ困難」ということで入所をお断りしたと聞いている。合計数ヶ月間のショートステイ利用中に3回の事故報告書を書く経緯があったからだ。最近はショートステイの利用がなくなったMさんであるが、今は何処の施設に居るのか分からない。

入所が受け入れられたTさんと、受け入れられなかったMさんの差がどこにあるのか? Tさんは車椅子に座っている(本当は座らされているだけなのかもしれない)が、Mさんは自由に歩き回るだけのADLがある。だから、Tさんは入所できて、Mさんの入所は介護負担を著しく増大させるという理由で「たらいまわし」になったのである。

ピック病の施設入所者は他に何人もいるのだが、これを以て「ウチの施設は介護力が高い」などとは思わない。認知症の誤った診断を見抜いて指摘し、適切な処方を要求する。そういうシステムを備えた施設でない限り、認知症患者/利用者にも施設職員/スタッフにもゆとりある明日はない。 


アリセプトの情報サイト

アリセプトに関する情報が掲載されている。患者と介護現場に与える副作用のことはさておき、製薬会社のHPであることに十分留意しつつ読んでみると色々と情報を得ることができる。

アリセプトはADの認知機能障害の進行抑制に対する有効性が証明されたAChE阻害剤であり、DLBの病態や臨床研究結果も考慮すると、DLBに対しても有効性が十分期待できると考えられました。そこでDLBを対象とした臨床開発を開始し、2014年9月に「レビー小体型認知症」に関する効能・効果の追加承認を取得いたしました。

規定された用法用量に縛られることなく、認知症患者の症状に適した処方がなされれば悪くはない薬なのであろうが、介護現場で実際にみる患者/利用者、アリセプト服用のため経口摂取できなくなり経鼻経管栄養の末に亡くなった親戚のことを思うとやりきれない。

このアリセプトのサイト、「産・学・医」の巨大利権複合体という奥の深いウラ事情を念頭に読んでみると、とても勉強になる。「世界の認知症に立ち向かう」 ・・・・・ 真の意味でそのようにあっていただきたいものである。