2015/09/26

インターネット社会と認知症情報

インターネット社会と認知症情報の関係

今回は、かなり「オタク」な話しです。このブログは、「認知症に関することを介護者目線で書いております」という大義名分の元、実はただのストレス解消の一手段でもあります。「のほほぉ~ん」と暮らしてはおりますが、やはり介護現場もなにかとストレスは多いものです。

だから、インターネットで情報検索したり、ブログを更新したりしております。ある日のこと、このブログのアクセスログを見て驚きました。異常に多いアクセスを記録していたのです(下図参照)


通常はこのブログのアクセスは1日に100回を超える程度なのですが、ある時刻にまとめて93回ありました。これはWebサーバのアクセスカウンタ機能が検索エンジンの検索に反応したのではなく、明らかに特定の閲覧者がページを表示してみたのでしょう。読んでみたのかまでは分かりません。

検索キーワードで最も多いのが、「コウノメソッド」です。また、このブログ表示のひとつ前にどこからアクセスに来たのか分かる機能(HTMLの仕様)では、「ドクターコウノの認知症ブログ」です。ちなみに、このブログをお気に入りに登録して頂いている読者数となると把握することはできません、

「デジタルデバイド」という言葉があります。これは「情報格差」のことで、パソコン、インターネットなどの情報技術を使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる格差のことです。認知症に関して、インターネットの恩恵を受けることができるのは、ほんの一握りなのかも知れまん。また、インターネットが使えても、情報が多くて逆に役立つ情報に辿り着くのがひと苦労なのです。

だから、自分の親が認知症になり、ネット検索してコウノメソッド実践医に辿り着き、治療を受けるというのはほんの少数なのかも知れません。また、認知症のことについて知りたくてネット検索したところで、膨大な情報源にある膨大な記述から真に役立つ記述を見つけることもまた大変です・

インターネットには「光と陰」、「功と罪」がありますが、「光」と「功」にのみ着目して認知症に関する情報を見てみると、分かってくることがあります。
それは、認知症医療はナラティブであるということです。そしてまた、NBMであるということです。更には、コウノメソッドはNBMであるということです。




EBMは確率論が抱える問題を内包しており、個々の患者が個性的であればあるほどevidenceが当てはまる部分は低下していきます。その手法の対局にあるのがNBMNarrative Based Medicine)で、患者個々の呈する多彩な症状にアプローチしようという方法がNBMです。つまり、EBMの限界を補完する実践法であるのです。NBMは、症状を診て治すという漢方医学に似ています。

実際に介護現場で認知症の施設利用者(患者)が一堂に会したところで症状を観察していると実に多彩であり、また共通していることもあるのも分かります。また、必ずしも典型症例ばかりとは言えない人もたくさんいます。まさに十人十色なのです。「嗚呼、これはとてもではないが、確率論で話しを展開するEBMだけでは到底手に負えない」と改めて感じるものです。即ち、エビデンスを中心軸にして認知症の治療を論じるには限界があるのだということに気付かされます。


お金との関係 ・・・もうひとつの認知症問題!?

資本主義経済・自由経済では、企業活動によって収益・利益を得ることは当然の営みです。製品(薬品)を売って得た利益の一部(多額)が大学研究活動に供される、マスメディアの広告媒体にのる、学会の運営資金に「協賛金」として流れる、ということはやはり気を付けてアタマの片隅においておく必要があると言えます。


薬剤の副作用は恣意的に隠蔽され、効果だけが協調される。だから、言葉巧みに副作用の実態があたかも、「副作用」が「効果」であるかのように評価されて語られるのです(下図参照)


こういった事情は、カネの流れ()によって製薬会社に都合の良いようにしか報道されないのです。また、その報道の情報源となる学会発表や論文にもカネの力が影響していることもあります。
同じようなことは医療に限ったことではなく、様々な業界にもあります。「おかしいな!?」と思ったことはカネの流れで考えることも必要です。

インターネット放送というカネの流れとは関係ないであろうメディアでは、大手マスメディアではあまり取り上げられることのない方々が登場されています。真実というのはむしろ、こういう方々の意見・主張にこそあるような気がします。

認知症患者が増加の一途を辿ることは間違いない今日、インターネット上にある無数のブログなどで語られる認知症患者と介護者の姿はナラティブであり、(少数ながら)認知症治療で望む効果を得られた方々こそEBMそのものなのでしょう。
この「少数」を「多数」に変えて、近い将来には「普通」の当たり前のことにする。今、どうしても取り組むべき課題です。


総合力で解決する

最近ようやく解ったこと・・・NBMとEBMの関係でコウノメソッドを理解するという視点が必要。
それから、それぞれの長所を活かしながら、相互に補完し合いながらシステムとして体制を築き上げるということ。





相も変わらぬ政治パフォーマンス

特別養護老人ホーム(特養)を増設しても、根本的に解決することはないでしょう。増設すること自体が難しくなってきているのに・・・ 「介護離職ゼロ」とは、親の介護のために仕事を辞めるということなのですが、介護職離職ゼロ」を先に何とかすることも重要課題です。介護職を辞める人が多いのは、ひとえに重労働の割に賃金が安くて報われることの少ない仕事だからなのです。
(以下、青色表記はYOMIURI ONLINEより転記引用)
「介護離職ゼロ」目指し、特養増設・待機解消へ安倍首相は、先の自民党総裁選の公約で掲げた「介護離職ゼロ」の実現に向け、特別養護老人ホーム(特養)の大幅な整備に乗り出す方針を固めた。全面的に介護が必要な入所待機者を、2020年代初めまでに解消することを目標に掲げ、16年度当初予算から特養の整備費用を拡充する。24日の記者会見で、社会保障制度改革の最重要施策として表明する。 首相の記者会見を踏まえ、政府は、少子高齢化や、労働力人口の減少を食い止める策の検討に向け、経済界や労働界などでつくる「国民会議」を創設する。 特養の入所待機者は、13年度で全国に約52万人いる。このうち、身の回りの世話が一人ではできず、自宅で待機している「要介護3」以上の約15万人をゼロにすることを目標とする。

特養が良さそうに見えるのは誤解で、「核廃棄物処分場」よろしく「医療・介護産業廃棄物処分場」とでも言いたいのが現実なのです。その理由は、上に示した図にあるようなシステムが存在しないままに、現在に至っているからなのです。


「国民会議を創設する」って、構図がどこか似ている。3.11東日本大震災で放射能漏れを起こした東京電力福島第一原子力発電所の事故対策として、当時の政府は次から次に「委員会」だの「会議」だのを設け、御用学者の意見を聴いて有効性のないことばかりやっていたのです。その構図と似ています。政治家はまた同じような失敗をくり返すのでしょう。

とても分かり易い話し
御用学者ではない小出裕章助教を招聘せよ!(現在、京都大学を定年退官、詳しくはこちら)
御用学者ではない河野和彦医師を招聘せよ!(名古屋フォレストクリニック院長 詳しくはこちら)
ということです。

現実的解決には、上図のようなシステムを取り入れた有料老人ホームには補助金を出して、特養並の利用料金にすることです。それと併せて、認知症医療村」を解体することです。




2015/09/13

前頭側頭型認知症 -鑑別に迷う症例-

「最近、レビー小体型認知症が増えている」とマスメディアで取り上げられることはあっても、「前頭側頭型認知症は最近増えている」とマスメディアで言われることはないようです。理由のひとつに、治療薬として既存の抗認知症薬(アリセプト、メマリー、レミニール、リバスタッチ/イクセロンタッチ)が承認されていないから。もし、これらが承認されたとしたら、「前頭側頭型認知症は増えている」として注目されることでしょう.。




はじめの症例は、「認知症=アルツハイマー型認知症」程度の漠然とした知識しか持ち合わせていなかった頃に遭遇した症例で、今からおよそ7年ほど前のことです。最近になって、たぶん前頭側頭型認知症(FTD)なのだと理解した過去の症例です。

次の症例は、たぶんFTDだろうとすぐに鑑別した現在進行形の症例です。「たぶん」と接頭辞(但し書き)をつけたのは、CT画像を観て「やっぱりね!」と裏付けが欲しいのですが、私は医師ではないですからそういうこともできず、「たぶん」としました。次の2症例は、症状をよく診ず、丁寧な問診もせず、CT画像に頼った診察をすれば、ATDと誤診するような症例です。



謎の症例・・・ たぶん前頭側頭型認知症

60歳代後半の男性、夫婦2人暮らし。初めて会ったのに、「あたたは立派な人だ。よく存じ上げてますよ」ととても愛想良くニコニコして話しかけてきたので、アルツハイマー型認知症(ATD)なのだろうと思いました。自立歩行程度のADLはあるのですが、彷徨くことはなくいつも同じ席でじっとしていました。だから、デイサービスで過ごす時間の大半は手のかからない人でした。ただ厄介で迷惑なのは、常に唾を床に吐き続けることです。この人は奥さんの介護を受けて、晩年に入院するまで在宅で過ごしました。

 ATDを支持する症状
  ・愛想が良く、取り繕いが多い
  ・鏡現象がある(鏡の機能が解からず、鏡に映った自分に話しかける)
  ・食事は介助が必要ながらも拒否は少ない
  ・いつもじっとしているから手がかからない

この人は数年前に他界したのですが、前頭側頭型認知症を詳しく知るまではATDなのだろうと思っていました。ところが、FTDを念頭に置いて振り返ってみるとATDではなくて、FTDだったのかもしれないと思うようになりました。
大切なことは、認知症タイプを鑑別することではなく、陽性症状や陰性症状で患者家族が困らないような治療をすることなのです。鏡現象を生じる程に高度の脳萎縮があるのですから、中核症状を何とかするよりも、周辺症状を抑えることに注力すればよいのです。

 FTDを支持する症状
  ・入浴時に介助を拒んで暴れる
  ・トイレに行くものの、便器外への排尿
  ・弄便(家具、壁などに便を付ける)
  ・所構わぬ唾吐き
  ・食事介助時に、口をすぼめる
  ・多幸的(易怒性はほとんどなく、どちらかというと穏やかである)
  ・送迎車の乗車、降車の声かけに従わないことが度々ある

この人は夫婦で同じ職場に勤めていて、私の母と同僚でした。元気に働いていた頃、奥さんの姿が見えないと探すことがあったようです。既知の関係だったから聞き出すことができたのですが、ちょっと目を離した隙に何処かへ行ってしまうこともあったようで、お昼頃に行方不明となり、夕方に警察に保護されたこともありました。

幸いにして晩年(70歳代半ば)の入院まで在宅で暮らせたのは、
 ・アリセプトを継続しなかったこと(一時期服用したが、効果がなくて中止した)
 ・積極的治療を望まず、薬を何も飲んでいなかったこと
 ・異食、暴言、暴力、唸り声がなかったこと
 ・夫婦とも70歳代で、介護者の奥さんが元気だったこと
 ・手はかかるものの、比較的穏やかなタイプの周辺症状であったこと
ということでしょうか。

この症例は、ATDのような・・・? FTDのような・・・? と、鑑別に迷う症例でしたが、よくよく考えてみると、どちらかにきれいに二分できるはずもないのが認知症です。生前診断がATDで、死後解剖でFTLDであったということもあるようで、困った症状をできるだけ速やかに、そして安全に鎮めてもらう」ことを目的とする治療を受けることができればいいのです。必ずしも、記憶機能の回復だけが認知症治療とは限らないのです。


おしゃべりな性格? ・・・ だけど前頭側頭型認知症
「うるさい!」 あまりにもうるさいから、誰もが「出ていってくれ!」と思う症例です。患者である入所者や家族が気の毒と思うよりも、お世話する施設職員の方こそが気の毒になるのです。
この人はショートステイ利用を経て入所となりました。【参照→認知症介護通信15/02/14
「家族が気の毒」ではなく、「施設職員が気の毒」となってしまいました。

初対面の時に、第一印象の「ピック感」を掴んでいたことと、FTLD検査セットからピック病(前頭側頭型認知症;FTD)なのだと確信していたので、「まあ、こんなものだろう」と傍観者でいたのです。

 FTLD検査セット
 ・利き腕はどちら? ・・・ 右よ、こっちの方が力が入る
 ・右手で肩を叩いて ・・・ 沈黙して無動
 ・「猿も木から落ちる」の意味は? ・・・ 無言
 ・「弘法も筆の何?」 ・・・ 無言


よもや面倒を看ることになろうとは・・・!
施設入所で縁が切れてホッとしたのは在宅のケアマネ、うるさくて手に負えないことから解放された家族。迷惑被害を被るのは施設職員。こういう構図が後を絶たないのが介護施設の実態なのです。


 FTDを支持する症状
 ・食事期間に食事を拒否しておきながら、「おにぎりを頂戴!」としきりに催促する。
 ・「水をくれ!」、「お茶をくれ!」と頻繁に催促する。
 ・済ませたばかりのトイレにまた連れて行くように頻繁に催促する。
 ・「アメを頂戴!」としきりに要求する(甘いモノ好き?)
 ・時々、歌い出して陽気に振る舞う
 ・臥床介助しても、なかなか寝ない。
 ・誰構わず、話しかける。
 ・職員を呼び止め、何度も同じことを言う、
 ・1人にすると、一段とうるさくなる。

こういうことが毎日続き、他の利用者の迷惑にさえなってきたので、コントミン(ウィンタミンと同じクロルプロマジン)がポンと1錠だされました。ところが運悪く、発熱を生じてしまったため服用中止になりました。せめて、朝4mg、夕6mgのさじ加減をして副作用を生じさせないように配慮しておけば、状況は違っていたかもしれません。

結局、入院治療することになりました。職員は皆、喜びました・・・・・「静かになる!」
静かな施設となった介護現場の平穏な日々は長くは続きませんでした。元気いっぱい、帰ってきました。即ち、入院の成果は何ひとつなく、治療失敗だったのです。

前頭側頭型認知症(FTD)であるにも拘わらず、アルツハイマー型認知症(ATD)との診断で、リスパダール、セロクエルが入院中に処方されていたようです。FTDへの第一選択肢はウィンタミン(コントミン)なのですが、初めに12.5mg錠が処方されて発熱のため再度使われなくなったのがまずかったでしょう。リスパダールもセロクエルも副作用が出た上に、効果がなくて中止になりました。
それで、最終的に頓服として就寝時にロヒプノールが処方され、退院して施設に戻ってきました。

入院加療はまったくの無駄だったことになります。理由として推測されること・・・
 ・FTDを診断できなかった
 ・入院中に症状をしっかり把握できていなかった
 ・第一選択肢であるウィンタミンの使い方がまずかった
 ・薬剤過敏であるかもしれない(但し、現時点でDLBを疑う徴候はまったくなし)
 ・私の観察による鑑別を看護師が無視した
ということは指摘しても妥当であるでしょう。

最終的にどうするか? これが重要!
 (1)ウィンタミンを施設天秤療法で調整する
 (2)フェルガードを家族に購入してもらう
 (3)我慢しながら介護する(威力業務妨害の被害者・職員虐待の被害者として)
結局の所、(3)の選択肢を選ばざるを得ない状況にあるというお粗末な顛末です()

「ここは医療機関ではない!」と言い出す職員はどの介護施設にも居るものです。この見識のなさが、結局は自分達の仕事をストレスに満ちた、無駄の多い現場に仕向けているのです。



2015/09/07

前頭側頭型認知症の症例

前頭側頭型認知症は医師でなくても鑑別できる

前頭側頭型認知症(FTD)はアルツハイマー型認知症(ATD)と誤診されることは多々あります。逆に、アルツハイマー型認知症が前頭側頭型認知症と誤診されている事例に遭遇したことはありません。勿論、これらの認知症が境界線をもってきれいに鑑別されるとは限らず、混合型もあります。

ただ、経験的に言って、FTDをしっかりと理解して鑑別できるようになると、ATDもしっかりと鑑別できるようになります。これは当然のことで、ATDは除外診断なのですから。ある意味、認知症診療に於ける診断(鑑別)精度向上のポイントは、FTDの理解にあると言っても過言ではありません。

「認知症」と言えば、ATD、DLB、VaDの3タイプについて幾らか知識がある程度だった私は、特養で理解不能の症状に多数遭遇することになりました。上記の3タイプに関する知識だけでは理解も鑑別もできない施設利用者が居たのです。これらの方々は、このページでこれから説明する症状を呈する人たちであったのです。

認知症診断にCT画像検査があれば、補助的ツールとして有効であることに違いはないのですが、その補助がなくても鑑別は可能であると実感されます。コウノメソッドでは、画像検査装置がなくても診断が可能なようにシステム化されています。

認知症は普段の生活をよく観察すれば、見抜くことができます。人は歳を取れば誰でも呆けてきますが、それは正常なことです。問題なのは、「社会適応能力」が著しく阻害された状態にあり、陽性症状のため他人に迷惑をかけるような状態に陥ってしまうことです。



認知症の中で特に「迷惑」なのが、前頭側頭型認知症(FTD)です。従来、FTDはピック病と呼ばれていました。厳密には、FTDとピック病は違うのですが、大雑把に言って同等と認識して構いません。(このブログでは、ピック病と記したり前頭側頭型認知症と記したりしていますが、ほぼ同義語として混用しています。)

前頭側頭型認知症のスペクトラム

ピック病の症例がアーノルド・ピック医師によって報告されて120年以上経過しました。ピック病は、マンチェスターグループによる分類で、前頭側頭葉変性症(FTLD)の下位に組み入れられました(1996年)。
この分類では、臨床分類と病理分類が混在してしまい、理解しにくい概念となっています。例えば、ピック小体の有無にかかわらず、症状から分類して「ピック病」という。言葉の意味が理解できなくなってしまった症状の認知症を「意味性認知症」という。こういった具合に、原因(病理)と結果(症状)が同じ「土俵」に並んでいるのです。
下図は前頭側頭葉変性症(FTLD)の分類を示す概念図です。「ピック病の症状と治療」(フジメディカル出版)、p.92より

加えて、症状があまりにも多彩ですから、理解しづらい概念となっています。前頭側頭葉は大脳の中でも大きな容積を占めますから、萎縮した部位によって多様な症状が現れます。更には、その人の性格とか生育歴や習慣なども症状を修飾します。


それでも介護者は観ている ・・・ただ知らないだけ?!
前頭側頭型認知症の鑑別は難しいのか、というと必ずしもそういう訳ではなくて、実は施設介護者は観ています。ただそれを「前頭側頭葉変性症だ!」と知らないだけのことであるようです。

日中の職員が多い時間帯は当然のことながら、夜勤帯にシフトが替わる見守りが手薄になる時間帯に、事故防止のために同じテーブルや隣接するテーブルに寄せ集められる入所者が居るはずです。
その多くが、実は前頭側頭型認知症の人たちなのです。

 ・臥床介助してもすぐに起きてくる  ・大きな声で騒ぎ、要求訴えが絶えない
 ・頻繁にトイレに行きたがる     ・不必要なナースコールを鳴らす
 ・眠らずにベッド上で動き続ける   ・事故につながるリスクがあり、目が離せない

たぶん、特養や老健での夜勤経験者ですとか、日勤のみの人でも心当たりがあるはずです。上記に挙げた入所者で、「できれば施設から出て行って欲しい!」と思いたくなるような入所者の多くは前頭側頭型認知症の可能性があるとみてよいです。例外は、LPCの人、アリセプトを過剰に服用しているATDの人、ただ単に就寝するには早いと思っている認知症ではない人です。

前頭側頭型認知症の症状は多彩

FTDを医師ではない者が鑑別・見抜くことができないのかと言うと、実はそうではなくてちゃんと見抜いていることもあります。ただ知識がないが故に、それをFTDであると認識していないだけなのです。下記の症状(行動)は、どちらかというと在宅で行動がある程度自由な状況であれば遭遇することでしょう。

■状況に合わない行動
 身勝手な行動、状況に不適切な悪ふざけ、急に意味もなく笑うなど。
■意欲減退
 原因不明の引きこもり、何もしない。
■無関心
 服装や衛生状態に無関心で不潔になる。周囲の出来事に興味を示さなくなる。
■逸脱行為
 万引きなどの軽犯罪を繰り返し、反省をしない。他人の物を集めてまわる。
■時刻表的行動
 散歩など決まった時間に行う。止めると怒る。
■食物へのこだわり
 毎日同じもの(特に甘いもの)しか食べない。際限なく食べる場合もある。
■常同言語、反響言語
 同じ言葉を際限なく繰り返したり、他人の言葉をオウム返し。静止しても一時的にやめるのみ。
■嗜好の変化
 好きな食べ物が変わる。飲酒・喫煙が大量になる。
■発語障害・意味障害
 無口になる。はさみ・眼鏡などを見せても言葉の意味や使い方が分からなくなる。
 鏡に向かって話しかける。
■記憶・見当識は保持
 最近の出来事など覚えているし日時も間違えない。道も迷わない。

【注記】上記は認知症を学ぶ会」掲示板より転記引用(一部加筆)


前頭側頭型認知症の入所者が見せる症状

施設入所者の場合、生活に制限が加わるので上記のような症状(行動)を見る状況は少ないですが、下記の症状(行動)から前頭側頭型認知症の鑑別に繋がります。介護現場で注意して観ていれば気付けます。これらのうち、いくつ該当すれば前頭側頭型認知症であるという基準はありませんが、「ピックぽいね!」(前頭側頭型認知症なんだろうね)という感覚を掴む上で重要な手がかりとなります。

■落ち着きが無く、なかなか座らない
■腕組み、足組み
■ズボンのたくし上げ
■指しゃぶり
■口唇傾向
■歯磨きしない
■食行動の異常(異食、拒食、過食、掻き込み)
■ふざけ症(モリア)
■人前で裸になる
■びっくり眼(まなこ)

■落ち着きが無く、なかなか座らない
介護現場で困るのは、落ち着きがない、なかなか座ってくれない、じっとしていない利用者です。目を離した隙に何をしでかすか分からないからであり、他の利用者への迷惑行為、異食、転倒・転落に繋がるからです。
「どうぞ、お座りください」と声をかけても座らない人は座らないのです。
また、転倒のリスクが増大するから、目的もなく急に立ち上がるのも困ります。

■腕組み、足組み
これは迷惑ではないですが、場にそぐわない状況でこれらをされるとイヤな気分になるものです。例えば、トイレに連れて行き、便器の前だというのに足を組んだままじっとしている。食事の配膳が整っているにも関わらず、腕を組んだままじっとしているなど。

■ズボンのたくし上げ
迷惑ではないですが、ズボンをたくし上げることがあります。横になっていても、車椅子に座っていてもズボンをたくし上げます。また、ズボンをおろすこともあります。

■指しゃぶり
眠っている時以外は、常に指をしゃぶり続ける。手を清潔に保ってあげていれば指しゃぶりくらいは放置できるのですが、他の利用者などの傍目を思うと気持ちの良い行為ではないです。SD(意味性認知症)の利用者がピック化して指しゃぶりを始めた事例があります。また、慢性硬膜下血腫が進行したせいであろうと推定されるが、指しゃぶりが常同行動となってしまった事例もあります。
アルツハイマー型認知症(ATD)では、末期になってもほとんどこういう行為はないとされます。

■口唇傾向
口元に何かを持って行くと、口をすぼめたり、吸ったりする行為です。食事中にこれをされると、やたらと食事介助の手間と時間がかかるようになります。スプーンで食べものを口元まで持って行くと、急に口をすぼめてしまい食べないのです。摂食拒否かとも思えるのですが、そういう訳でもないようです。何とか口の中に食べ物が入ると、しっかりと咀嚼して飲み込むのですから。

■歯磨きしない
施設では毎食後、歯磨き(口腔ケア)するようになっていますが、自発的には絶対にやらないです。従って、介助することになるのですが、それを頑なに拒否するのです。その拒否があまりに激しくて歯ブラシをへし折られた事例があります。あまりにも酷い場合は2人がかりで口腔ケアを行うこともあります。ATDではこういう事例はないです。

■食行動の異常(異食、拒食、過食、掻き込み)
異食の事例は多々あるのですが、全員がFTDです。ATDDLBでは見たことがないです。ただ、1例のみアリセプトの過剰投与が原因で異食したADTは見たことがあります。
ファスナーを引きちぎってスルメのように噛んでいる、おしぼりを食べる、カーテンの布地から糸を引き出して食べる、膝掛けの装飾の玉(パチンコ玉程度の大きさ)を引きちぎって食べる、という事例があります。だから、仮におとなしいタイプであっても目が離せないのです。不思議なことに、FTDで弄便して、その便を食べるというようなことは見たことがないです。弄便も便を食べるのは、圧倒的に脳血管性認知症(VaD)の人に多いです。

拒食もしばしば見かけます。食事介助中、口元まで食べ物を運ぶと、顔を横にそむけるのです。自力で食事ができる場合、なかなか箸を付けない、食べ物を遊び道具のように弄ぶことがあります。

過食は見たことがないです。施設では提供される食事はカロリーや栄養が管理されているから必要以上の量は出てこないし、ご飯の「おかわり」もないからです。ただ、先ほど食事を済ませたばかりなのに、「ごはん!ごはん!」と際限なく叫ぶような事例があります。 

掻き込みは、何かに急かされるように食べるような行為を示すのですが、あまり見たことがないです。ただ、一品ずつ食べる行為はよく目にします。これは、VaDでもみられます。


■ふざけ症(モリア)
幼子のようにはしゃぎ、踊り、キャッキャと笑うという事例があります。「箸が転がっても笑う」という例えががあるのですが、まさにそういう感じです。 

■人前で裸になる

まさに前頭側頭型認知症を確信させる症状です。前頭側頭型認知症以外の利用者で人前で衣服を脱ぎ始め裸になる人を見たことがないです(但し、本当に裸になる以前に職員が気付いて、衣服を脱ぐのを制止するのは言うまでもない)。 ある日、最寄りの駅でうずくまっている老婆が警察に保護され、私の勤務する施設に緊急入所(ショートステイ)することになったのです。一見して「ヘンな感じ」と思っていましたが、入浴拒否にはじまり、急に人前で衣服を脱ぎ始めたので「前頭側頭型認知症だ!」と分かりました。

■びっくり眼(まなこ)
何か意表を突くできごとにびっくりして、「あっ!」と驚いたマンガのように目を見開くように大きな目をしています。FTDの利用者を見ていると、確かにそういう印象があります。勿論例外もあるのですが、私は不自然さを感じる目の開き具合をFTD鑑別の手段にしています。


ピックスコアで鑑別する

前頭側頭型認知症を鑑別するために、コウノメソッドでは「ピックスコア」という検査セットが用意されています。これを覚えておき、上に挙げた症状を見つけ出せば、前頭側頭型認知症を鑑別できます。




前頭側頭型認知症の治療

海外のサイトを検索してみると、前頭側頭型認知症の治療方法はないとか、少量のSSRI(抗うつ薬の一種)か少量のアリセプトが有効な場合があると記されている程度です。日本国内でも同様、SSRIの使用が少数ながら言われている程度で、コウノメソッドで提唱されているように、ウィンタミン(一般名:クロルプロマジン)とフェルガード(一般名:フェルラ酸)が前頭側頭型認知症に有効であるという記述を見出すことはありません。
それだけに、「前頭側頭型認知症にウィンタミンとフェルガード」という治療方法は前頭側頭型認知症の患者・介護者にとっては福音です。