2015/12/26

フロンタルアルツ

フロンタルアルツの症例

Mさんはアルツハイマー型認知症(ATD)の典型症例のような人でした。割と調子よく声かけに応じてくれて、抵抗なく介助させてもらっていました。意思疎通もまずまずといった感じで、トイレ誘導にもすんなりと従っていました。ATDにはよくあるケースで、「その場、取り繕い」が上手ですし、「元気ボケ」のイメージにピッタリでした。

ある日、私が夜勤で起床時の更衣と排泄介助をしようとすると、急に怒りだして、「殺せ~! バカ~!」などと叫き出しました。まだ覚醒直後で、たまたまご機嫌が悪かったのだろうと、その時は思いました。
それからまた、夜勤の時に同じように叫き散らすことがありました。ただ、こういう場合を十分に想定して、性急に行動を促さないように声かけをしますが、それでも「何かヘンだぞ・・・」と感じました。

「何かヘンだぞ・・・」と感じるポイント
 ・今までに聞いたことのない言葉(暴言)を発する。
 ・激しく抵抗(つねる、引っ掻く)して暴れる。

そういうことが何度かあったのですが、日中は割と調子よくやっていました。Mさんの居るフロアは私の担当ではないから時々様子を見る程度でしたが、「異常」を感じることはありませんでした。

Mさんは、歩行の時に転倒防止のために介助する程度で、あとは放っておいても何の問題はありません。まさにアルツハイマー型認知症らしく、明るく陽気なキャラクタです。
ただ、年のせいもあり、1年前に比べると食事に時間がかかるようになってきました。だから、食事の半ばからは介助が必要になりました。

日中の状況
 ・昼夜逆転なく、夜は熟睡。当然、傾眠なし。
 ・集団生活で問題となる行動はなく、見守りがあれば十分。
 ・歌を聴かせると、喜んで手拍子している極めて明るいキャラクタ。
 ・総じて職員の誰からも好かれる性格。

食事の状況
 ・集中力が切れるのか、途中で食べなくなる。
 ・食物を弄び、ごちゃ混ぜにする。
 ・介助して食べさせようとすると、口をすぼめる。
 ・食後に歯磨き介助すると、頑なに嫌がって抵抗する、暴言を吐く。

会話の状況
 ・「ご飯、食べましたか?」 → 「食べたよ」      (以前、会話として成り立っていた)
 ・「ご飯、食べましたか?」 → 「お父ちゃんがいいよ」  (現在、話しがチンプンカンプン)


フロンタルアルツなのだろうと思いました。フロンタルアルツというのは、前頭葉症状の強いアルツハイマー型認知症のことです。通常、ATDといえば、海馬萎縮、頭頂葉萎縮があるのですが、障害を受ける脳の部位が前頭葉にもみられる場合を特にフロンタルアルツと言います。

ヘンだと思ってもCTを撮るわけにもいかず、症状だけからでフロンタルアルツと鑑別するしかありません。4年前も、3年前も、1年前もATDとみておけばよかったのですが、今は明らかに周辺症状が変わってきました。


介護者にとって重要なこと
 ・診断に迷うより症状を診て、先ずは困っている症状を抑える。
 ・診断して、途中で診断名を変えても構わない。

ということを教えてくれた症例でした。

このMさんが、もしアリセプトを服用しているのであれば、即刻中止する。5日程度経てからレミニールに変える。易怒性があることは否定できない状況になってきているので、ウィンタミン服用も視野に入れておく(今のところ、介護で迷惑に感じることも、集団生活に支障をきたすレベルではない)。認知症では、DO処方(前回と同じ繰り返し処方)というのが必ずしも適切な選択とは限らないということも覚えておきたいです。
自分の親であれば、フェルガードを飲ませることは言うまでもない。


【蛇足】心に残る暴言集
日々、介護現場では上述のような暴言に耐えながら介護しているのです。以下は私の遭遇した暴言の事例です。
 ・この腐れオヤジ! 要らないコトするな!!  (自分自身もそう思う)
 ・人を荷物のように手荒く扱う!  (たしかに仰る通りです、すみません)
 ・バカ、バカ、バァーカ!  (事実だと思う)
 ・山に捨ててやる!  (うっ! 捨てられたのは貴方でしょ!)
 ・チン○、ちょんぎってやる!  (あら、いやだぁ~!)

2015/12/12

第2回認知症治療研究会 開催のお知らせ

今年も残すところ20日。月日が経つのは早いもので、年が明けるとすぐに3月がやって来ます。3月と言えば、「第2回 認知症治療研究会」が開催されます。その告知がありました。詳しくはこちらから→







2015/12/10

抗認知症薬は適量を使いましょう


現代書林発行 2015年
「認知症の薬をやめると認知症がよくなる人がいる」というのは、決して落語の話ではない。そんなおかしな話があるのが今の認知症医療の現状なのだ。
本書は今の認知症医療(診断と処方)が抱えるさまざまな問題点を、町医者(長尾)と介護ライター(東田)の立場から実証的に列挙し、改善するための方法論を提言している。

認知症には、「アルツハイマー型」「レビー小体型」「前頭側頭型」「脳血管性」の4大認知症があり、それぞれ症状も違えば処方も異なる。これをあまり知らない医者や専門家が治療に当たっていることが認知症医療の第一の問題である。「病型」や「症状」を知らなければ誤診をする可能性は大いにあるし、処方を間違える場合もあるのは当然だ。認知症と見れば、「とりあえずアルツハイマー」と診断する医者も少なくないというから恐ろしい。

(上記は、同書より転記引用)  


こういう恐ろしい現実を毎日のように観ていると、こんなことも書きたくなる。



リバスタッチ過剰投与の症例
今年の夏、ある老人(女性)がショートステイで1泊2日滞在しました。私がデイサービスに勤務していた時にお世話した人でした。脳卒中後遺症で左麻痺があります。「認知症だね」と鑑別するには程遠いようなおとなしくてしっかりとした人でした。

ただ、アパシーかうつ状態なのだろうという程度の活気のなさと、少し暗い雰囲気はありました。家族介護で在宅生活だったのですが、介護力はあまりないようでした。部屋はゴミだらけで足の踏み場もなく、布団は汚れ湿っぽいままでした。

小さな声ながらも、きちんとした言葉遣いで話しができました。外出はデイサービスに通うときくらいでしたから、送迎の際には遠回りして海を見せたり、山の展望台から街の景色を見せて喜んでもらいました。お父様は軍人で、佐世保基地配属。将校だったそうで、それなりに躾教育がちゃんとされていたとのことでした。ドライブの最中、同じ昔話を何度も聞いたのですが、アルツハイマー型認知症らしさも感じないでいました。

それから5年くらい経て、家庭の急な事情ということで、ショートステイ利用で再会となりました。車椅子にシートベルト(身体拘束)。急に立ち上がったり、前傾になって車椅子から落ちるなどの事故が絶えないとのことです。どうしたことかと観察していたら、
 ・テーブルにある物には何でも手を出す
 ・「ジャンケンポン」と刺激を与えると、即座に手を出す
 ・急に怒り出し、ケロリと穏やかになる
 ・とにかく多動で、片時もじっとしていない

ということが分かりました。


以前に比べると活気に満ち溢れてはいるものの、どことなく「ピックぽさ」を感じたのでした。残念ながら、時間の都合で確証を掴むことはできませんでしたが、重大な事実がありました

 リバスタッチ18mg

小さな体なのに、これは過量でしょ! 上記に挙げた症状が腑に落ちました。リバスタッチは多くても9mgまで。体重を考慮すると4.5mgでもちょうど良いのかも知れません。
以前みていたアパシーかうつ状態のような活気のなさは見る影もなく、元気がありすぎ! 実は、「元気」ではなく、副作用による興奮なのです。
1泊2日の滞在を事故なく終えて帰りましたが、その後どういう暮らしをしているのか分かりません。


現場ではこういう調査研究報告が既に出ていて、過剰投与の問題は指摘されています。
高齢者認知症患者における薬物療法における治療効果の 実態把握に係る研究に関する研究

誰かが正面切って言い出さないと、もう何にもできない状況に陥っているのでしょう。既成事実に対してそれが適切ではないと分かっていても、それを「No」と言えないのは困る!
抗認知症薬の添付文書にある用法容量規定(増量規定)を、医者の処方の「さじ加減」を認めず認知症医療を誤らせる実質的な増量強制であると批判的に取り上げ、「一般社団法人抗認知症薬の適量処方を実現する会(代表理事・長尾和宏)を設立した趣意と、今後の認知症医療に法人が果たすべき役割を宣言し、多くの医者が参加することを呼び掛けている。

2015/12/05

認知症問題を整理すると・・・

認知症を取り巻く問題点は大きく分けると次の3点になるだろうと思います。
  ①認知症を正しく診断して治療できない医師が多い。
  ②抗認知症薬を適切に使うことができない規定がある。
  ③向精神薬を適切に使う選択が間違っているかのようなガイドラインがある。


①の問題点
認知症と言えば、アルツハイマー型認知症くらいにしか思っていない医師がいまだにいる。
そのため、前頭側頭型認知症(ピック病)をアルツハイマー型認知症と誤診して、アリセプトを処方しているが故に、在宅介護では手に負えず、施設入所となる(家庭崩壊)
一方、施設では介護負担を強いられるだけの状況に陥れられている(施設崩壊)

②の問題点
「効いたところで処方量を維持する」ではなく、「規定だから、その通りに増量する」。これで問題ないと勘違いしている。医療費の無駄遣いであり、時には介護費の無駄遣い(要介護度アップ)に繋がっている。

③の問題点
非薬物療法には限界があり、認知症患者を施設でお世話するのも限界に達している。抗認知症薬を使わないことは良しとしても、向精神薬さえも使わないとなると困る症例も多い。
前頭側頭型認知症(ピック病)は認知症の概ね15%前後。この患者がもたらす「迷惑」はあまりにも深刻なのです。


「重箱の隅を突いたようなこと?」 ではありません。上記は日本全国、何処にでもみることのできる大問題なのです。
認知症は、厳密な意味で病理学的根治を望めないのが現実です。けれど、介護で困る周辺症状を抑えること(治すこと)は可能です。



このことを十分理解して治療を求めることが必要なのです。



製薬会社は営利企業として売上げを追求するのは当然のことですが、適切な情報をきちんと伝えなければなりません。

   エーザイ・15年度第2四半期 国内医療用薬4.9%減収 アリセプトで在宅市場強化
アリセプトでは、後発品に適応がないレビー小体型認知症の認知向上・診断方法の普及に加え、「在宅医療市場での新たな貢献に向けた取り組みを引き続き進める」(同社広報部)としている。同社は8月に医薬品アクセス推進部を新設し、急性期医療機関から老健施設、在宅医療までシームレスに医薬品にアクセスできる環境の実現に取り組んでいる。そのひとつがアリセプトへのアクセス向上であり、情報提供先として介護をサポートする医療従事者や介護担当者に広げている。同社ではこの取り組みを継続していく。  
 詳細はこちら→     



2015/12/01

報道姿勢から見えてきた認知症の真実


認知症治療薬の処方量は、製薬会社によって段階的に増量していくように規定されています。
「まだ3mgなんだけど、これでちょうどいい感じになっているよね」って介護者が実感していても、製薬会社が決めた規定があるから医者は処方量を量を増やさないといけません。

  3mgでいい感じになっているのだから・・・
  5mgにしたらもっと効果が出てくる?
  10mgにしたら更に良くなる?

とんでもない! 抗認知症薬と言われている薬は、症状に合わせて反応(作用・副作用)を見ながらちょうどいい具合に効いているところで、その用量を維持するのが適切な治療なのです。

規定された用量通りに服用しないのがポイント

大手マスコミ、全国紙が一面トップで報じない真実

認知症治療薬の処方量をめぐる問題はもはや解決すべき重要課題であるにも関わらず、大きく取り上げられることなく、地方紙が一斉にトップで報じました。「ローカル紙」なので、初めて見聞きする新聞社の名前が多いです。全国紙の場合、製薬会社は広告主でもあるため、自主規制しているのでしょう。

共同通信が調べて全国の地方紙が一斉に報じた、認知症薬審査(レセプト)の実態では地域差があり少量投与を認めない県もあるということです。

「医師の裁量を認めよ」として、医師による適量処方を認め、患者個々の症状に合わせた「さじ加減」が必要とある大学教授のコメントが掲載されていました(下図、右側のコメント)


日本老年精神医学会、第25回集会
(20106)のプログラム・抄録集(p.127、Ⅱ-1-5)には、「塩酸ドネペジルの副作用と少量維持投与の必要性」という発表もされています。

立場による違い? それとも・・・

以下はその抄録から一部転記
塩酸ドネペジルは、アルツハイマー型認知症の唯一の治療薬であり、広く使われている。その作用は、意欲や認知機能の向上であるが、この作用によって、易怒性や暴言・暴力が悪化して介護が困難になるケースがしばしばある。このような場合には、塩酸ドネペジルを5mgから減量すると、易怒性や暴言・暴力が減少し、しかも認知機能の悪化も防げることが経験的に知られている。
また、この論文では、
前頭側頭型認知症で他医から塩酸ドネペジルを投与されていた3例では、塩酸ドネペジル中止により、BPSDが軽減して介護負担が軽減した。
とも報告されています。
【注記】
2010年のことなので、認知症治療薬は、まだ塩酸ドネペジル(アリセプト)しかありませんでした。この薬は、ATDへの適用が承認されているだけで、前頭側頭型認知症(FTD)への適用は当時も現在もありません。

アリセプト(塩酸ドネペジル)が登場して以降、早い段階から既に、易怒性などの興奮症状の副作用は指摘されていたのです。それが、今日に至るまで放置され、無視されてきたというのはどういうことでしょうか!? 

 ・製薬会社が利益至上主義を突き進んだから
 ・製薬会社から研究資金の援助を受けている大学(教授)は遠慮して真実を言えない
 ・マスコミは、広告主である製薬会社に遠慮・配慮している
 ・「医者の言うこと、治療に間違いはない」と、患者家族が勘違いしている


認知症治療薬のひとつであるアリセプトを服用している場合、「効果と見る場合」として下表左のことを言っているのですが、「副作用と見る場合」として下表右のように示しています。介護者にとって介護負担が増して迷惑がかかるだけとなれば、それは副作用であり、中核症状(記憶機能、認知機能)を改善することとの引き替えにするには代償が大きすぎます。