2016/02/17

認知症と食行動異常

認知症と食行動

食事の様子をよく観ていると、認知症鑑別の根拠(手がかり)を得ることができることがあります。そもそも食事は高齢者にとっては楽しみのひとつではありますが、誤嚥、窒息などの事故に繋がりかねない危険をいつもはらんでいます。そのため、介護者は特に注意深く食事の様子を観ているのですが、それだけに認知症の症状も実は見ているのです。次にあげる食行動は、実際に介護現場で見ている事例です。




事例1-T(FTD)
【食行動】
・1品ずつ食べる
・食器を舐める
・おしぼりを食べようとする
・テーブルにこぼれた食べ物・汁物を吸う
【食行動以外】
・意味もなくニコニコしているが、介助中に急につねる


事例2-S(FTD)
【食行動】
・前席、隣席の人のお膳に手を出す(器ごと盗る、手掴みで食べ物を盗る)
【食行動以外】
・特に用件があるわけでもないのに、呼び止める


事例3-N(FTD)
【食行動】
・1品ずつ食べる
・ごはんだけ食べて、おかずは残すことが多い
【食行動以外】
 ・戯れに噛みつく
 ・おちゃらける


事例4-H(FTD)
【食行動】
・1品ずつ食べる
・ごはんだけ食べて、おかずは残すことが多い
・お茶を飲まないことが多い
【食行動以外】
 ・周囲への関心がなく、じっとしている


事例5-M(FTD)
【食行動】
・1品ずつ食べる
・ごはんだけ食べて、おかずは残すことが多い
【食行動以外】
 ・語義失語


事例6-K(SD)
【食行動】
・常に舌を出すが、全介助拒否なく食べる
【食行動以外】
 ・失語、寝たきり


事例7-T(SD)
【食行動】
・食べ物をごちゃ混ぜにする
【食行動以外】
・人前で裸になろうとする
 ・語義失語 


事例8-E(LPC)
【食行動】
・1品ずつ食べる
・早食い
・手掴みで食べる
・配膳が整うのを待たずに、すぐに手を出す
・前席、隣席の人のお膳に手を出す(器ごと盗る、手掴みで食べ物を盗る)
【食行動以外】
 ・大声での独語、暴言、放歌
 ・視線が合わない


事例9-T(LPC)
【食行動】
・お茶やおかずを床にこぼす(捨てる)
・介助を拒否する
・食欲不振
【食行動以外】
 ・幻覚、妄想
 ・暴力(つねる、唾を吐きかける)、易怒性
 ・歯車現象


事例10-I(推定AGD)
【食行動】
・お茶やおかずを床にこぼす(捨てる)
・摂食拒否
【食行動以外】
・所構わず唾を吐く、注意しても無反省


事例11-S(VD、右麻痺)
【食行動】
・1品ずつ食べる
・早食い
・半空間無視による食べ忘れ
・スプーンを使うが、手掴みで食べることもある
【食行動以外】
・弄便する
 ・失語


事例12-K(ATD、頭部外傷による左麻痺)
【食行動】
・ごはん、おかず、お茶をごちゃ混ぜにする
・ごはんだけ食べて、おかずは残すことが多い
【食行動以外】
 ・しゃべるものの、作話が多い


事例13-H(VD、右麻痺)
【食行動】
・早食い
・咽せやすい
【食行動以外】
・失語


事例14-K(VD、左麻痺)
【食行動】
・自力摂取しないが、介助には拒否なく応じる
【食行動以外】
・アパシー(?)


事例15-T(VD、右麻痺)
【食行動】
・自力摂取が進まないが、介助すれば拒否せず食べる
・手掴みで食べることもある
【食行動以外】
・失語
・弄便する


食行動は前頭葉機能に多く依存するのですから、認知症鑑別において有益な手がかりを与えてくれます。1品ずつ食べる認知症患者の大半はご飯()を1粒残さず食べるものの、おかずは残す傾向にあります。高齢者の場合、食糧事情の歴史的背景からなのか(あるいは躾によるのか)、ご飯()は粗末にすることがないようです。不思議なことに、おかずだけを1品ずつ食べてご飯()だけを残す人はほとんどいません。

ある時、町中で保護されて緊急ショートステイ利用となった人がいます。初対面で、「ピックぽいね」(前頭側頭型認知症(FTD))と感じたのですが、猛烈な勢いで食事を摂り、ご飯()だけを食べておかずには一切手をつけなかったことから、前頭側頭型認知症(FTD)だと鑑別したことがあります。勿論、この鑑別には他にFTDを支持する症状がありました。
一方、血管性認知症(VD)にも1品ずつ食べる食行動はみられます。


認知症外来の問診で、食事の様子を伝えることで認知症をきちんと診断できる医師がどれだけ居るのか分かりませんが、「1品ずつ食べる」ということは伝えてみる価値はあると思われます。
医師は診察室で食事の様子を直接見ることはないですが、患者家族(介護者)に食事の様子を聞き出すことはできます。問診(質問)で、「ごはんを1品ずつ食べることはありませんか?」と尋ねることで、前頭側頭型認知症(FTD)を疑う有効な手がかりのひとつとなり得るでしょう。

【参考】
ピック病の症状と治療 ―コウノメソッドで理解する前頭側頭葉変性症
河野 和彦 ()
フジメディカル出版









  演題     認知症は、治そうと思わないと治らない
  日時     2016314() 午前10時~午前12時 (開場 午前930)
  講師     河野 和彦先生 (名古屋フォレストクリニック 院長)
  対象     医療・介護従事者および認知症に関心がある方

2016/02/13

レビー小体型認知症はうまく治せない?!

レビー小体型認知症(DLB)の症例

介護施設はどこも人手不足です。あまりにも人手不足で人員の「自転車操業」をやっているかのようで、正規職員もパート職員も次から次に辞めていきます。それを補う人材派遣の非正規介護者も契約更新することなく去っていきます。これは単にある特定の介護施設に限らず、日本全国どこにでもあることです。

ご多分に漏れず私の勤務する施設も同様で、私が従来型からユニット型施設に応援に行くことになりました。「他の人にも打診してみたけれど、断られた。2ヶ月間だけ応援に行って欲しい」とのこと。「どうせ、ロクな状況ではなかろう・・・」と思いつつ、要請に応じたのでした。(実際、ロクでもないことが分かりました)

出勤初日、ある居室に入ると、Yさんがベッドに横たわっていました。Yさんは約4年前、有料老人ホームでお世話していた人でした。
4年のYさんの様子:
 ・杖歩行なので、転倒防止のため近接介助が必要
 ・活気がなく、おとなしい(抑うつ状態?)
 ・幻覚、妄想なし
 ・REM睡眠行動障害なし
 ・日中は離床して、夜は熟睡
総じて特別に何と言って、なにもなし。DLBは、活気がなくておとなしいことから、うつ病と誤診されることがあるのですが、Yさんの場合は「うつ病」とも「うつ状態」とも思えるような状態ではありませんでした。

昼食のためYさんを離床介助しようと声をかけたのですが、僅かに頷いて返事するだけで声は出ません。ベッドから車椅子に移乗して上着を着せました。その時、肘を持って腕を曲げ伸ばししてみたのですが、両腕ともに「歯車現象」がありました。歯車現象というのは、例えると、「AT車のシフトレバーを操作した時に感じるカクッ、カクッとした手応え」が上肢にある現象のことです。
家族や施設介護者は医師以上に認知症患者の身体に触れているのですから、こういう症状にも気付かなければなりません。

現在のYさんの様子:
 ・車椅子で過ごすか、ベッドに臥床するだけの生活で全介助
 ・食事はペースト食、水分はとろみ(嚥下状態が悪くてむせるため)
 ・調子の良いときと悪いときの波がある
 ・意識障害ほどではないにせよ、いつも虚ろな目をしてボーとしている
 ・歯車現象がある(鉛管様筋固宿はない)
以上のことからDLBと鑑別してよいでしょう。

ただ気になることもあります。通常、DLBでは上半身が前に傾くことが多いのですが、Yさんは後ろに反り返ることが多く、移乗の際には上半身に力を入れて反り返ろうとします。また、眼球が横方向にはよく動くのですが、上下方向には動かないような感じです。加えて、無言でまったくしゃべらないことも気になります。

これらのことから、PSP(進行性核上性麻痺)も疑っておいた方がよいのかもしてません。但し、PSPと並んで、大脳皮質基底核変性症(CBD)も診断が難しいことから、両者をまとめて大脳皮質基底核変性症候群(CBS)と言うようになっています。

 
認知症医療・介護無責任連携の顛末

陽性症状がないことから、食べられなくても特養のユニットケアにて何とか暮らしているYさんなのですが、伝え聞くところでは有料老人ホームで暮らしていた頃には妄想や暴言があり精神科病院に入院していたとのこと。
それで退院後に当施設に移り変わって来たというのです。入所時に交付された情報提供書を見てみると、「認知症」との診断名が記載されていました。

現在は症状から明らかにDLBなのですが、入院当時にどのようなレベルの症状であったか詳細は不明なので何とも言えないのですが、有料老人ホームの医療連携先である内科開業医と精神科病院の診療なので、やっていたことは当てになりません。
これらの医療機関は、用法用量規定通りに抗認知症薬を使うとようなころですから。(以前、とんでもない迷惑を被ったことがあります)

陰性症状が酷くて食べられないため、食事介助に1時間程度かかるYさんですが、もし何かの病気で入院することになったらもう最後です。口から食べる経口摂取はおしまいです。医療連携先である大病院に入院すると、胃瘻か経鼻経管栄養になります。すると、もう当施設に戻ってくることはないでしょう。私の知る限り、過去に3症例そういう事例を見ているからです。

ある日、ケアプラン作成のために担当者がやって来ました。その人は介護支援専門員(ケアマネ)ではありませんが、仮に介護支援専門員であったとしても結果は同じです。
つまり、「介護は介護現場でできることを考える」という頑なな姿勢であり、「介護現場で困っている認知症の症状を治療はできないだろうか?」、「治療、即ち投薬は適切なのだろうか?」という視点がまったく欠如していることです。

やはり、施設入所受入時には、その時に服用している薬の妥当性を精査してみることが必要です。

実際、Yさんにはリスパダールという向精神薬が投与されているのですが、この薬が災いして食べられない、歩けないという状態を作り出していないだろうかと考えることが必要なのです。

「どうせ、ロクな状況ではなかろう・・・」という当初の予感は的中しました。


認知症教育が必要不可欠 

コウノメソッドで認知症を学べば、医師でなくても85%の精度で認知症を鑑別できると河野医師は述べています。実際、その通りのことを私は実感しています。
そこで見えてくるのが、「医者はちゃんと患者を治療していない」ということです。
その結果、介護現場はただその不適切な治療の後始末をさせられているのだということです。そして、ほとんどの介護スタッフ(看護師、ケアマネージャも含む)は、そのことに気付いていないということです。ある意味、哀れなものです。

日中の職員配置が比較的多い時も、夜間の少ない職員の時も、これらの方々のお世話で疲弊するだけの介護現場です。

施設入居者の入居受入時に診断と処方されている薬剤をチェックして、不適切な時には是正することができれば、それだけで入所前よりも穏やかになって平穏に暮らしていけると思います。「この入所者、症状が進行(悪化)してきたね」ということは、介護職が一番気付きやすいです。入所者に最も近くに居て、いつも様子を見守っているからです。

介護で困る状態にある入所者の存在は、他の入所者にとっても迷惑な存在でもあります。本来ならば受けられるであろう手厚い介護の機会を、その人たちが奪っているという事実があるからです。
介護はサービスなのですから、できるだけ高品質でありたいものです。
高い品質を維持するためにも、より良い治療につなぐ体制を施設で整備しておくことは極めて重要であるといつも痛切に感じています。

接遇や介護技能だけでなく、実践的で正しい認知症教育を施設スタッフが受けられる教育システムを有する介護施設は、地域で評価され成長を遂げるものと期待しています。
認知症急増の時代。きれいな部屋、おいしい食事、楽しいレクレーションの提供だけでは、他の施設と何の違いも特色もない、医療費と介護費を無駄遣いするだけのありふれた介護施設なのです。


認知症治療研究会の詳しくはこちら→

2016/02/08

認知症医療と介護


転換期を既に迎えている認知症医療と介護

質の高いニーズがなければ、質の高いサービスは育たない。これはなにも、外食産業やホテル・レジャーなどに限ったことではなく、医療についても、介護サービスについても同様です。
極めてシビアな話し、手術に失敗して半身麻痺となったら患者・家族はどうしますか? 補償を求めて訴える措置をとることもあり得るでしょう。医療とてサービスなのですから、質の高いサービスを求めて当然なことです。レストランに行って、美味しくなければもう二度とそこには行かないでしょう。だから、最大限の努力をするのです。


ところが、認知症に関しては「医者任せのやりっ放し」。これが現実なのです。「認知症外来」、「もの忘れ外来」を標榜しているからといって、「大病院だから大丈夫」、「大学病院だから大丈夫」というのが実は、質の高い医療サービスを受けることと同じではないのが現状なのです。医療機関で処方された抗認知症薬を服用して、症状が悪化したということが往々にしてあるのです。「歳のせいですから・・・」、「症状が悪化したのです・・・」という説明がなされても、実は薬のせいであることに気付けない医師も多いのです。


医療無責任
連鎖

Oさんはレビー小体型認知症(DLB)の初期でした。精神科開業医に長年通院していましたが、処方されていたのは向精神薬と睡眠導入剤。様子がおかしいことに気付いた家族が連れて行った大学病院で検査して診断が「認知症」。それで出された薬がアリセプトでした。
大病院に入院したOさんは次第に口から食事を摂れなくなり、経鼻経管栄養(鼻からチューブを通じて食事する)になりました。その後、療養型病院に転院したのですが、症状は悪化するばかりでした。
レビー小体型認知症(DLB)なのですから、アリセプトが原因で食事ができなくなったことは当然考えられることです。複数の医療機関に受診、入院したのですから、どこかでレビー小体型認知症(DLB)だよね、アリセプトはこの患者には会わないよね、と気付くことさえできなかったのです。
  

多職種無責任連携

Mさんは全身が硬直していて寝たきり状態で入所してきました。声かけに反応もなく、終日ベッドに臥床しており、食事と入浴の時に離床するだけでした。初めは脳卒中後遺症による麻痺なのだろうと思っていました。
水分補給のためとろみのついたお茶を飲ませようとすると、口をギュッと閉じて拒否() 離床時に上着を着せようと拘縮した腕をゆっくりと動かすと、鉛のようにジワジワと動き、歯車のようにカクカクとした抵抗感触があります。頸部は後ろに反り返り、顔は年齢(70歳後半)不相応に艶やかでシワがなくて蝋人形のような印象です。
「痛い!」大きい明瞭な声で、動かそうとした腕の痛みを訴えます。また、眼球がどう動くのか注意深く観ていたら、左右横方向には僅かに動くものの、上下方向にはまったく動かないことが分かりました。

この人はどういう生活歴(ある意味、治療歴)を有しているのだろうと思い、情報ファイルを見てみました。するとそこには、LPC症候群を示唆する記録がありました。
 ・近所の郵便受けから郵便物・配達物を盗む
 ・家族に暴言を吐き、暴力をふる、奇声をあげる
 ・幻覚や妄想がある
 ・デイサービスに行くのを拒む
 ・転倒しやすい
こういった記録と、現在の状態(症状)を照らし合わせてみると、CBSCorticobasal syndrome 大脳皮質基底核症候群)なのだろうと鑑別してよいと思います。確定診断ではありません。確定診断は、死後脳の剖検をしないと分からないのです。

病理学的診断(確定診断)は一旦横に置き、症状から鑑別して、
 ・介護上(あるいは、生活上)、困っている症状は何か?
 ・具体的かつ現実的に実行可能な治療とは何か?
ということを見出さなければなりません。Mさんの場合、単に「認知症」との診断が下されていたのですが、症状が緩やかに進行する過程で、看護師、理学療法士(あるいは、作業療法士)、介護士が、各々に看護、リハビリ、あるいは介護の場面で関わり合い、CBSではなかろうかと気付くことができたはずです。
にも関わらず現在は寝たきりの全介助となり、適切な治療もなくただ単に介護施設でお世話するだけとなっています。はっきり言って、介護現場が全介助というカタチで多職種無責任連携の後始末を強いられているのです。





今すぐ実行できる具体的かつ有効な答えを示す

先に示した症例は、「もの忘れ外来」を標榜する現在の一般的な医療機関での認知症治療としてはやや難治例かもしれません。
前者の症例のDLBの場合、初期の軽度であったこともあり診断がきちんとできなかったのでしょうが、大学病院の診断と処方に疑義を持たなかったこと、アリセプトを中止しなかったことが災い(天寿まっとうには早過ぎる死を迎えています)しています。

後者の症例のCBSについては、我が国における正確な統計は存在しないのですが、人口10万人当たり2人程度でやや女性に多いとされているようです。私も実際はもっと多いはずと思いますが、認知症治療研究会の神経内科医にお尋ねしたら、「統計より多いです。製薬会社が治療薬を持たないから注目されないのです」と教えてくれました。


「認知症は治らない」というのは、病理学的な厳密性から言えば事実です。一方、臨床学的にみて周辺症状を治せるということもまた事実です。認知症の病理についてはまだまだ未解明のことが多く、依然として根本的治療には無力です。しかし、だからと言って、適当に何かやっていればいという訳にはいかないのです。即ち、医療費高騰、介護費高騰の大きな要因となってしまうのです。

医師のみならずコメディカルも含めて、こういう「不都合」を是正することに問題提起しているのが、認知症治療研究会なのです。