2016/07/23

認知症を学ぶコツ(5)

所詮、ド素人である認知症オタクの「オタク的考察」。
1人の著者が著した書籍を何冊も「教科書」として用いると、ある意味、偏りが出てくるのは仕方ありません。その点は留意しておきたいことです。

しかし、首尾一貫した治療戦略に基づく詳細な治療戦術(コウノメソッド)は、「専門家」と称する「権威」ある多数の著者によるガイドラインを遥かに凌駕する、妥協のない有効な武器となるだろうと思います。(とは言っても、100%対応可能ということはなく、治せないものは治せないようです。) 

コウノメソッドにはエビデンスがないということは河野医師自ら認めていることですが、認知症の治療にはエビデンスよりもナラティブの方がピッタリ合うようで、NBM(Narrative-based Medicine)も認めないと望むような治療成果は得られないのではという気がします。多彩な症状を呈する認知症患者(施設入所者)100人規模を一度に観ていると分かります。


コア()からの展開

何冊も認知症関連書籍を購入して独学を重ねたのですが、その拙い経験から言って上図のように、コア()となる1冊(或いは数冊)から展開して知識を拡げていく学習方法を考えました。出版された順からすると、このようにはならないのですが、「教科書」として系統立てすると概ね上図のようになるだろうと思います。

河野医師による著書
・コウノメソッドでみる認知症診療 日本医事新報社 (2012/10)
・コウノメソッドでみる認知症処方セレクション 日本医事新報社 (2013/11)
・コウノメソッドでみる 認知症Q&A 日本医事新報社 (2014/12)
・ピック病の症状と治療 ―コウノメソッドで理解する前頭側頭葉変性症 フジメディカル出版 (2013/5)
・レビー小体型認知症 即効治療マニュアル (改訂版)  フジメディカル出版; 改訂版 (2014/12)
・コウノメソッド流 臨床認知症学 日本医事新報社 (2015/10)

他の著者による書籍
・血管性認知症―遂行機能と社会適応能力の障害 ワールドプランニング (2008/06)
・老年期認知症ナビゲーター (Medical Navigator Series)  メディカルレビュー社 (2006/09)

「血管性認知症」では、4大認知症のひとつである血管性認知症をアルツハイマー型認知症(ATD)との対比で解説しており、サブタイトルに掲げた「遂行機能と社会適応能力の障害」をあますところなく説明しています。認知症を理解し、説明するにあたり、「遂行機能と社会適応能力の障害」という表現は、短い言葉で端的に認知症を言い表しており私の好きな表現です。「遂行機能の障害」は専ら中核症状、「社会適応能力の障害」は専ら周辺症状として理解することもできます。

「老年期認知症ナビゲーター」は認知症のバイブルと評されるだけあって、認知症関連のひとつの用語を見開き2頁で解説した「百科事典」です。河野先生の著作では登場することのない用語も解説されており、認知症全般にわたって広く把握するのに有用な1冊です。但し、いつも常用して「教科書」として使うことも、認知症学習のコアとなるものでもないだろうと思います。


インターネットの活用
図には示していませんが、更に何か関連することを知りたい時にはネット検索して調べるようにしています。最近覚えたテクニックなのですが、ブラウザで用語を検索する際に文字情報だけでなく画像でも検索結果を表示して見るようにしています。そこで目にとまった図を用いているHPを表示して記載内容を読みます。文字情報だけで欲しい情報に辿り着くより早く結果を得られることもあります。

ネット検索でピットしたキーワードを含む情報には、PDF形式で公開された有益なドキュメントがあります。学会誌・研究会誌等に掲載された概説や総説、レポートなどがあり認知症関連知識を深める上で欠かすことのできない記述も多数あります。

参考になったPDFは保存するようにしています。成書となってまとめられたことだけが有用な情報とは限らず、成書で表された数行の事柄が数行~数頁にわたって深く述べられていることもあり、理解を助けてくれることもあります。認知症医療は「日進月歩」で進んでおり、成書となるのを待つには遅い一面もあります。


字面を追って読むだけでいいのか? 
人はとかく、印刷物として記されたことを真実であるかのように受け止めてしまうものです。しかし、時としてそれは真実ではないことも往々にして存在するものです。唯一、真実(事実)なのは、今、目の前で見ていることだけです。

書き出して自分なりにまとめてみる。学生の頃であれば当たり前のことのようにやっていた基本です。ノートに書いて整理するのもいいですが、私の場合PowerPointに整理して書いています。デジタル情報化すること(パソコンで編集・表示すること)により、研修会などで用いることができるからです。理解して、それを他者に説明できるレベルにまで到達すれば「本物」となります。
昔、この看板を掲げた学舎で体得したこと

認知症は医療とケアの複合的事象として捉えるべきなのですが、「ケア(非薬物療法)で」と結ばれていることがあまりにも多いです。それは必ずしも間違いではないことだろうと思いますが、少なくとも医療の失敗の後始末をケアに委ねるような世間一般の趨勢だけは変えていかなければなりません。

介護報酬の切り下げに加え、人手不足もさることながら、人材不足の続く介護現場はたまったものではありません。現在は、10人中1人が痴呆症ではなく、10人中8人が認知症であり、時代の流れに応じた対応が強く求められるのです。

だから、
「進行性疾患のせいにされ続けた認知症医療でのくすりの副作用」 を、介護者がきちんと見極めて、
「認知症とお薬-絶望から希望へ-」 薬を適切に使うことの重要性を理解して、認知症治療をあきらめないことが必要なのです。





2016/07/22

認知症を学ぶコツ(4)

更に広く、深く
前回に引き続き、今回も「オタク」な話しです。「コウノメソッドでみる認知症診療」(河野和彦著、日本医事新報社刊)で認知症の症状と治療方法の全体像を掴むことができることは前回書きました。

更に一歩理解を深めるためにはどうするかです。これには、いくつかの方法がありますが、私が実践した方法は、「繰り返し読む」です。繰り返し読みながら、介護現場で遭遇する(目撃する)症状と本に記載された症状・症例を照らし合わせて理解を深めて行きます。


「コウノメソッド流 臨床認知症学」が日本医事新報社から出版されました(2015/10/10)552ページのボリュームがありますが、「集大成」と言うにふさわしい内容です。この本では出典が多数記載されてはいますが、他の著者による類書と比べると少ないのかも知れません。だから、「信頼性に欠ける」、「権威がない」と評するならばそれは的はずれです。

大学教授の肩書きを持つ著者が英文の出典を並べ、EBM(evidence based medicine)があるかのようにまとめあげておきながら、「治療法はない」とか「・・・という報告もある」としても実用上はあまり意味のないことです。経験に基づく治療方法が具体的に述べられているからこそ有用で役に立つのです。

認知症を神経伝達物質(NTM)の過不足で分類した本書は、画像検査や病理学に振り回されない診断と治療を具現化した構成が秀逸で、認知症を論じる上で画期的な手法であろうと思います。
本書は文章がやや冗長であり、無くてもいいかなと思える所もありますが、その冗長性が故にとても読みやすくなっています。
「肩肘張らずに読める」ということが、飽きることなく繰り返し読めるのでしょう。(私は現在3回目の精読中で、毎回マーカーで線を引く箇所が増えていきます。それだけ、前回の読みが足りなかったのでしょう。)

この「コウノメソッド流 臨床認知症学」をスタートにしてもいいだろうと思います。実際はそれでも足りませんので、やはり「レビー小体型認知症 即効治療マニュアル (改訂版)「ピック病の症状と治療 ―コウノメソッドで理解する前頭側頭葉変性症」は必要だろうと思います。


症状を正確に伝える・聞き出す
「同じことを何度も言う(尋ねる)」という症状は短期記憶障害から生じていることもあります。海馬萎縮 → 短期記憶障害 → アルツハイマー型認知症(ATD) という理解でもよいでしょう。
では、「1日に同じことを何度も言う(尋ねる)」となると、どう解釈するか? 前頭側頭型認知症(FTD)を疑ってみることも必要です。
「今日、何曜日?」と、一連の連続する会話の中で何度か言うことであればATD。一方、1日のうちで、何度も尋ねる必然性もないにも拘わらず、わざわざ尋ねるのはFTDである可能性が高いです。

一般に記憶障害=海馬萎縮(側頭葉内側の萎縮)ATDで多くみられることですが、むしろFTDの方が顕著であるという認識の方がすっきりします。因みに、トイレに行ったことを忘れて、介護者への迷惑を顧みず、またすぐにトイレに行きたがるのはATDよりFTDの方が多いです。

「同じことを何度も言う(尋ねる)は上記のようにまるで意味合いが異なってくるのです。ですから、問診する医師は、付き添いの介護者からこの違いをしっかりと聞き出すことが必要ですし、介護者もこういうことをきちんと説明することが求められます。

何故このようなことが解るのかというと、ここで紹介した書籍の字面を追うだけでなく、認知症高齢者の様子をいつも観察しているからであり、書いてあることと実際を対比させる作業をいつも実践しているからです。
これは、認知症に限らずいろいろな疾患を持つ患者の診察で多忙な医師には真似ることのできない、医師に勝る介護者のアドバンテージなのです。だから、医師は介護者の話しを謙虚に聞く姿勢が不可欠なのです。


話しを直に聴くことの重要性
これは少し不思議なことなのですが、手許にある本の著者のお話しを直に聴くという機会は、より一層の興味を掻き立てられ理解が更に深まります。
認知症の介護は、現在服用中の薬のことを常に意識しておくことが極めて重要です。施設の介護従事者はこのことがサッパリ解っていないことがほとんどです。十分にコントロールされていない認知症の周辺症状のせいで、如何に無駄な介護をしているか?! 
このことを書籍(活字情報)のみならず、直接聴く機会を利用するのも学習のひとつです。



2016/07/18

認知症を学ぶコツ(3)

介護従事者は認知症を鑑別できる
たぶん、かなりのオタク系のハナシ。
認知症に興味を持ち始めた当時の私は、「認知症を制する者、介護を制する!」と、何の根拠もなく直感しました。ただの妄想かもしれません。しかし、増え続ける認知症高齢者、相変わらず続く介護人材不足、その他諸般の事情を勘案すると、「妄想」ではないような気がします。そこで今回は、「オタク流 認知症の学び方」です。

認知症を学ぶにあたり、認知症ケアに関することからというアプローチもありますが、認知症ケアを基盤(中心)に据えたアプローチでは認知症を十分に深く理解することはできません。この方法は自分で実際にやっていたのですが、モノにはなりませんでした。山登りに例えると、目指す山頂もルートも、自分が求めるものとは違っていたのでしょう。
認知症ケアを基盤とた場合、書物には薬物療法はほとんど記載されませんし、あるとしてもほんの少しです。「他書に譲る」とされることが多いです。


認知症の症状と治療の視点で学ぶ



こういう経験(経過)を踏まえて、「コウノメソッドでみる認知症診療」(河野和彦著、日本医事新報社刊)が入門書、スタートに適していると思います。これから認知症診療に関わりたいという医師のみならず、患者家族や介護従事者にもお奨めです。

先ずは、認知症の全体像を俯瞰することから始まります。それにうってつけなのが、「コウノメソッドでみる認知症診療」です。何故なら、ここに記されていることと、介護現場で実際に見ている認知症の症状を照らし合わせて理解を深めることができるからです。

症状を表す用語を覚えることも重要です。但し、著者である河野先生による造語も多数ありますので、一般に使われている用語と混乱しないことも必要ですが、この造語が認知症を分かり易く理解できるポイントであるとも言えます。

全体像を掴んだら、次に詳細です。認知症は主に、アルツハイマー型認知症(ATD)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭型認知症(FTD)、血管性認知症(VD)の4つがあるのですが、詳細としてFTDを学ぶことをお薦めします。ATDが一番多い認知症なのだから、ATDからでは? 「後回しで、そのうちに」でいいです。

前頭側頭型認知症(FTD)はピック病とも呼ばれている、認知症全体のおよそ15%を占める認知症です。その症状というのが実に多彩で、鑑別に苦渋することもありますが、この理解が実はATDの理解につながります。介護現場で、「この人、とても迷惑だよね」と誰もが感じている高齢者は居るものです。よく観察していると、その人はFTDであるという場合が多いです。

それから、レビー小体型認知症(DLB)です。これを学ぶには、「レビー小体型認知症 即効治療マニュアル (改訂版)」( 河野和彦著、フジメディカル出版刊)が適しています。DLBの症状である意識障害と歩行障害に対する治療がきっちりと記載されており、役に立つ知識を得ることができます。

DLBは典型症例としては、いつもぼんやりと眠たそうにしている、幻覚(主に幻視)があるのですが、次第に怒りっぽくなって暴言を吐き、暴力をふるようになってくることがあります。レビー・ピックコンプレックス(LPC)です。これは河野医師の提唱する分類名ですが、DLB理解のポイントのひとつとなります。

さて、「後回しで、そのうちに」となっていたATDはどうなるのかですが、ここまで理解する過程でATDのことも理解できているハズです。一般に、認知症を解説する際に、ATDとの比較で論じられることが多いのですが、先に紹介した本でもATDのことは記載されているので十分です。

ところが現実というのは酷いもので、誤診だらけです。明らかにFTDなのにATDと診断されている症例は現実に多数あります。ATDは診断として他の認知症ではない、つまり「除外診断」なのです。この除外する作業(診断)ができていないということは、FTDも、DLBも、PSPSもしっかりと理解できていないということになります。

認知症は徐々に進行して行く病気ですが、初診での診断、あるいは初期の鑑別でATDであるとしていても、それでは説明しきれない状態になってくることがあります。時として診断名を変えてくれた方が患者家族・介護者としてはすっきりすることもあります。介護現場では、それが放置され野放しになっていることも散見されます。これは服用している薬の見直し、あるいは終了がおざなりにされていることでもあります。

但し、認知症はどのタイプと明確にクリアカットされる境界線がある訳ではありません。境界領域にある混合型も多数あり、その傾向は年齢が増すに従い混沌としてきます。だから、どのタイプと一義的に鑑別することのできない場合もあります。それでも、基本中の基本としてのこれらの鑑別能力は必要です。


セミナー開催のお知らせ






2016/07/14

認知症を学ぶコツ(2)

抗認知症薬の適量処方はどうなるのか

抗認知症薬の増量規定に従い続ける限り、認知症の進行を遅らせることはできない。むしろ、悪化させてしまうこともある。だから、増量規定を撤廃した方がよい。

良薬は適切に使ってこそ、その真価を発揮できる。

しかし、現実はこの極めてシンプルな考え方とは異なっています(左の新聞記事)


当たり前のことなのですが、その後どうなったのかというと、201661日、厚生労働省から通達が出ました(以下の記事)

これで一件落着、というほど認知症医療を取り巻く現実は甘くはありません。 認知症医療を上流に、介護現場を下流に例えると、上流から流れて来る諸問題を下流で受け止める介護現場はたいへんなのです。だからこそ、医者も介護者も、もっともっと認知症の薬のことを学んで欲しいと思うのです。





第一印象はLPC症候群

「おおぉ~い!」と大声を出す入所者が新しく入ってきました。騒がしいのは大抵の場合、ピック病(前頭側頭型認知症)です。うるさいから部屋で寝かされていましたが、「おおぉ~い!」と叫び続けていました。

夕食後、勤務が終わる頃に少し時間があったので、「コウノメソッド式認知症鑑別」をやってみました。
 FTLD検査セット
 ・利き腕は? ・・・ 「右」と即答
 ・左手で右肩を叩いて ・・・ すんなりと実行
 ・「サルも木から落ちる」の意味は? ・・・ 「そりゃぁから、サルも落ちるヮ」
 ・「弘法も筆の~」なに? ・・・ 無言で回答なし
  
おわりに、「正キツネ、逆キツネ」を試してみると・・・


まったくできず、これはアルツハイマー型認知症(ATD)か? とも思えるのですが、ピンと来る印象なし。雑談を交わしながら様子を観ていたのですが、その場凌ぎの取り繕いなし。
身体に触れても騒ぎ出すこともなく、左腕に歯車現象、右腕に鉛管様筋固宿を確認した。目は少しばかり「びっくり眼(まなこ)」で、とりあえずLPC症候群」と仮鑑別しました。
この間、10分程度。(外来初診に費やす時間より短い)

そうこうするうちに、「煙が出たぁ~!」と騒ぎ出す。
寝かせると、電話番号を大声で連呼する。

入所時に交付された「情報提供書」に目を通すと、そこには、
 ・アルツハイマー型認知症(ATD)
 ・嚥下機能の低下(咽せやすい)
 ・パーキンソン症
 ・アリセプト、グラマリール
の文言が記されておりました。
「また迷惑な症例が入ってきた!」 私は苦笑いしたのでした。


第一印象を元に「状況証拠」を集めて、その第一印象を支持する症状と支持しない症状を積み重ねて確定鑑別する。私流の「認知症の学び方」です。

2016/07/09

介護従事者だから知っておきたいCBSとPSPS(6)

寝たきり、あるいは寝かせきりの施設入所者に多いのは、脳血管障害(脳卒中)の後遺症でADLをすっかり失い、寝たきりで過ごす以外に手の施しようのない人です。離床は食事と入浴のときだけです。
もはやこの状態ともなると、「せめて離床してレクレーションに参加しましょう。なにか楽しみでも」と、離床介助する気にもなりません。ひとつには人手不足で忙しくて手を差し伸べるだけの余裕がないからでもあります。


PSPSの症例
【症状】
Nさん(77)は寝たきりです。全身が鋼鉄のように硬直しています。動くのは首だけで、横方向に首を振るように自分で動かすことができます。その様子は「イヤ、イヤ」と首を振っているかのようです。しゃべることもできません。胃瘻も造設されており、「なんだかよく分からないけれど、末期状態」というのが第一印象でした。こうなると、生活のお世話をするというより、生命維持のためのお世話をするといった感じです。

初めは脳血管障害(脳梗塞、または脳出血)だろうと思っていました。けれど、調べてみるとその既往歴はありません。ただ腑に落ちないのは、アルツハイマー型認知症(ATD)とされていました。仮にATDだとして、これほどに全身が硬直することはありません。ATDではどちらかというと柔らかいですし、硬くてもせいぜい「鉛管様筋固宿」を感じさせる程度です。また、常同行動を思わせる首振りも考えにくいです。

手指は関節リウマチを思わせる変形がありますが、やはり硬いです。ただ硬いながらも、鉛管様筋固宿のようにジワジワと動かすことができます。また、顔は皮脂によるためか艶やかでシワが少ないです。




【経過】
たまたまこのNさんの配偶者が施設職員で、家族として直接お話しをお訊きすることができました。

デイケアに通っていたこともあるけど、次第にワイドベース歩行で歩行障害が出てきた。言葉が出にくくなったため、脳神経外科を受診してタップテスト(脳脊髄液を30ml排除)を行ったら、しゃべることができるようになり、歩行も改善したとのことです。


また、別の医療機関ではCT検査で海馬の萎縮があることから、アルツハイマー型認知症(ATD)と診断されたとのことです。
「海馬萎縮=ATD」と考えるのは必ずしも正解ではありません。ATD以外の認知症でも海馬萎縮はあります。この間に入院したこともあり、急速に動けなくなってしまったというのです。

この症例の場合、第一印象で脳血管障害による後遺症だろうと思っていましたが、「状況証拠」を集めてみると進行性核上性麻痺症候群(PSPS)だろうと思うようになりました。以下にその「状況証拠」を記します。


 ・ATDに比べると、早期に寝たきり(歩行障害、嚥下障害)になったこと
 ・介護抵抗があり、家族が介護に難渋したこと
 ・アリセプトが処方されたが、興奮・易怒性が出て服用を中止したこと
 ・無言、無動で視線がまったく合わない、眼球が上下に動かない
 ・極度の筋固宿
 ・服用している薬はなく、薬剤性の原因は考えられない

以上のことを元に総合的に判断して、PSPSと正常圧水頭症(NPH)の合併症なのだろうと推察されます。因みに、レビー小体型認知症(DLB)との比較でみると、DLBの場合は目を閉じて眠っていることが多いのですが、PSPSではしっかりと目を開けていることの方が圧倒的に多いです。

第3期(末期状態)となったこの両者、排泄ケアでパッド交換をすると分かるのですが、PSPSの場合はまったく介助抵抗らしき動きは見せません。一方、DLBの場合は上肢が硬いながらも股間に手を動かそうとする動作があります。

【対症療法】
何故このようになってしまったのか・・・?! 家族は診断と治療経過が腑に落ちないとのことで、現状が寝たきりであることにも納得されていないようです。治療方法がないことから、ガイドラインでは専らリハビリについて記されています。しかし、患者家族としてはなんとかならないかと希望を捨てきれないものです。


【まとめ】
認知症が詳細に分類され臨床診断されるようになってきたことで、患者本人または患者家族が「腑に落ちない」状況から脱することができるようになってきた意義は大きいです。それに追従して治療方法(コウノメソッド)が見つけ出されるようになってきたことは希望が持てます。

しかし、一方で残念なのは、一般の医師がそのことを知らないということ。加えて、専門とされる神経内科医ですら鑑別(臨床診断)すらできずにいることには憤りをおぼえます。その結果、介護現場では多大な迷惑を被っているということ、また患者家族はどうすることもできないままでいるということです。

今回取り上げた症例は、患者本人の家族が施設職員であり同僚であることから、ある程度まとまったお話しを聞くことができましたので、参考にと「コウノメソッド流 臨床認知症学」(日本医事新報社刊)からp.358375をコピーして渡しておきました。あとはどうするか、家族次第です。



2016/07/01

タテマエとホンネの認知症医療

どこまで本気(本心)なのだろうか?
 「興奮性BPSDに対しては、抗精神病薬を使わざるを得ない場合もあるが、これまでに日本人の研究データはなく、EBMだけでは片付けられない問題もある。こうした中、実臨床でかかりつけ医が抗精神病薬を処方する際の医療安全面におけるよりどころとなるような、安全性の高いガイドラインを作成したい」

CareNetより一部転記 



ここでは、「抗精神病薬を使わざるを得ない場合もあるが、これまでに日本人の研究データはなく」とされていますが、エビデンスがあると評価されるに値するよな研究データはないのでしょう。ただし、それは学会として論文掲載を認めた上でのことであり、現実には少量の向精神薬を使うことによってBPSDが改善された経験はあるのではないでしょうか。


機関誌『老健』平成271月号では、以下のような掲載があります。
 米国FDA(食品医薬品局)は平成17年、認知症高齢者の行動、心理症状に対する抗精神病薬の投与は死亡リスクに関連することを発表した。その多くは心臓に関するリスクと感染に関するリスクだ。感染のリスクはおそらく誤嚥性肺炎が考えられる。FDAの勧告以来、認知症の薬物療法がしにくくなった。世界中で抗精神病薬に対して慎重に投与すべきだという動きが起こっており、いまでも続いている。<中略>
 その結果、全く逆の結果が出ている。死亡率と脳血管障害発生率は、薬の使用例のほうが、未使用例よりも低くなる傾向にあった。その理由は、FDAの警告以来、認知症の診療・スキルが向上するとともに、調査対象となった医師の差などがあるだろう。つまり、きちんと使用すれば死亡率が高まることはないと言い切れるのではないかと思っている。

一般に、論文では「第一選択肢」として「非薬物療法を試みるべきである」と結んでいることが多いし、また「更なる調査研究を期待したい」とされています。
前者の「非薬物療法を~」は認知症介護の実情を知らない者の言う常套句であり、現実的には厳しい提案です。後者の「更なる調査研究~」は信頼性の高いエビデンスを得にくいのではなかろうか。もし仮に、プラセボ群と比較して優位差のあるデータが得られたとしても、エライ先生方が論文掲載の審査を通すのだろうかということが懸念されます。

古くからある(従って薬価の低い)薬でも効果があると認めると、製薬会社にとってはあまりメリットがないことになります。また、抗認知症薬を減量したらBPSDが軽減されたという結果が得られたとしても論文として認められないようです。

製薬会社にとっては不都合なのでしょうが、それ以上にエライ先生方のこれまでの調査研究を否定する事実は無視し続けなければならないというご都合もあるのでしょう。
ガイドライン初版の改訂版として第二版を編纂したところにも問題があるのでは? むしろ、潔くゼロからのスタートとして作り直しの方が有益なガイドラインに仕上がると思うのは素人考えに過ぎないのでしょうか?